IT業界において、工程管理の重要性が叫ばれて久しいですが、改めて工程管理を行うことのメリットや運用時のポイントについて解説していきます。
工程管理を行うことで、何がどう変わるのか、組織としてどういった状態になることが望ましいのか、工程管理を行う目的・手法を再認識して、プロジェクトを円滑に推進することによって、組織内外にどのような効果が期待できるのかについても紹介していきます。
目次
工程とは
IT業界でのウォーターフォールモデルに代表される、要件定義、基本設計、詳細設計、開発、単体試験、結合試験、システム試験、リリースなどといった一つ一つの作業を「工程」と呼びます。
製造業などでは、商品企画、商品開発・製造、加工、運搬、検査等が一連の「工程」ということができます。
要約すると、IT業界でも製造業でも「完成品にいたるまでの一連のプロセス」を工程と考えておけば間違いないでしょう。
その一つ一つのプロセス(作業)を管理するのが、いわゆる「工程管理」であり、企業の業績を左右する重要な考え方となります。
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工程管理を行う目的・メリット
工程管理を行う目的とは何か、顧客目線と自社目線、2つの観点で目的やメリットを解説します。
顧客目線での目的
・納期の遵守
工程管理を行うことの大きな目的は、「納期を遵守する」ことです。納期を守るために効果的な工程管理手法を模索し、実践していくことが大切です。
納期を守ることで、顧客からの信頼を勝ち取り、継続的な取引が可能となります。適切な工程管理を行うことが長期的に安定した生産活動を行う上で重要になります。
・品質の担保
納期を守ることも重要ですが、製品の「品質」を担保することもベンダー側の大きな責務と言えます。
製品を納品する上で、顧客の要求に合った品質になるように製品を作る必要があります。納期を守った上で、一定水準の品質を保つことで、長期間にわたっての継続的な受注が可能となります。
自社目線での目的
・生産性の向上
闇雲に製品開発や製造を行っていても、効率的ではないため、工程管理を行うことで、ムリ・ムダ・ムラを発見し、改善を行うことで作業能率の向上や、製造原価の低減が期待できます。空いたリソースでより重要な業務に時間を割り当てたり、その他の製品開発に工数を割くことができたりするなど、好循環を生み出すことができます。
・リードタイムの短縮
生産性を上げることで、生産期間を短縮することにもつながります。生産期間を短縮することで、納期への対応を行いやすくなり、顧客の信頼度アップにつながります。
・利益の最大化
工程管理で明らかになったムリ・ムダ・ムラに対し積極的に対策を進めることで業務改善が進みます。また、前述の生産性の向上、リードタイムの短縮を行うことで効率的に生産が行えます。これらの要素全てが利益の向上に繋がり、利益の最大化が期待できます。
・属人化の排除
属人化は企業にとってはリスクですが、多くの企業は限られたリソースの中でプロジェクトを進行するため避けにくく、発生しやすい事象ですが、工程管理を行うことで対策が取りやすくなります。
工程管理では、計画時に作業タスクを細分化していくなかで各作業が見える化されます。また、リソースの割り当てを検討する中で属人化しそうなものや、属人化しているものが明らかになります。そのため、工程の中に手順書作成を加えたり、引き継ぎ作業をあえて入れるなどの対策を行っていくことで属人化の排除や避けるための取り組みができます。
・リスク回避
工程管理を行っていない現場で従業員の急な病欠が発生した場合、進捗や優先すべき作業などが本人でないとわからないということがあります。
工程管理を行っていれば、各従業員が日々進捗を更新することになるため、現状が把握しやすく、プロジェクトの進捗遅延を最小限に抑えることができます。
また、離職が発生した際も、工程管理があることで情報伝達がしやすく、企業にとってはリスクを回避できるというメリットがあります。
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プロジェクトの工程管理で発生しがちな問題
工程管理は、注意しなければ下記のような問題が発生することがあります。工程管理で発生しがちな問題を認識し、自社の工程管理の計画・運用の際に役立てましょう。
プロジェクトの終盤で進捗率が小刻みになる
あるプロジェクトで開発担当者が進捗率を90%と報告したとして、一週間後は95%、二週間後は98%などという状態が発生することがあります。
これは、各開発工程をきちんとブレークダウンできていない場合の典型的なパターンと言えます。
担当者はそのときどきに応じて進捗率を報告するのですが、作業を進めていくと、把握できていなかった残作業があることに気づいて、進捗率を下げるわけにもいかず、進捗率が小刻みに上昇していく形となってしまうためです。
このように、作業が進んでいくにつれて、また作業が増えるという状況を防ぐためにも、工程のブレークダウンを行うことが重要です。
工程通りに進捗しない
作成した工程がスケジュール通りに進まないこともよく発生する問題のうちのひとつで、原因としては、下記のようなことが考えられます。
- 作業のブレークダウンをしきれていない
- 作業工数の見積が甘い
- 適任を割り当てられていない
- バッファを考慮せずスケジュールを詰め込みすぎている
- 作業の前後関係、クリティカルパスを考慮できていない
計画時にこれらが発生しないよう考慮することや、発生した際は原因を特定し即座に対策を取ることが必要です。
多くの作業が着手中になっていて実際と合っていない
1人の人間で1度に作業できる量は限られているにも関わらず、多くの作業のステータスが着手中になっていて、今どの作業を実際行っているのかがわからないという状態になることがあります。
これは、作業の割り当てがオーバーラップしすぎていたり、担当者が優先順位を判断しきれず多くの作業に着手していたりということが考えられます。
これは、マネジメント側で計画時に担当者の割り当ても考慮して計画することや、優先順位を適宜伝えるなどのコミュニケーションを取ることで防げます。
担当者によって進捗率の定義が異なる
ある担当者の90%は、単体テストの完了、またある担当者の90%は開発の完了という認識だった、などのように、個人の認識でパーセンテージを報告している状態になることがあります。
状態が最新になっていない
都度状態をアップデートする習慣が根付いておらず、進捗を確認すると「それはもう完了しています」というような状態で、工程管理が思ったように機能していないということもよく発生する問題です。
誰がどのように完了したのかがわからない
作業が完了の状態になっていても、ステータスが完了となっているだけで、作業がどのように完了したのかが明示されておらず詳細が把握できないことがあります。
プロジェクトでは、想定していた作業が不要になったり、新たな課題が発生して作成される新規作業などもあります。そのような作業は特に注意が必要なことが多く、経緯や完了の状態を追えるようにしておくべきです。
工程管理作成時の「ブレークダウン」が問題解決のポイント
前項の工程管理で発生する問題の多くはブレークダウンによって解決することができます。
プロジェクト管理手法に関わらずブレークダウンが重要
IT業界のプロジェクト管理手法として主にウォーターフォール型、プロトタイプ型、スパイラル型、アジャイルなどが代表的なものとして挙げられます。どの手法にも一長一短があり、どれが良いということはなく、開発システムや開発体制によって使い分けていくのが最善策と言えるでしょう。
どの手法でも、納期を遵守した上で仕様書通りのシステムを顧客に提供することが大前提ですが、そのために重要なのが工程の「ブレークダウン」、つまり作業単位への細分化を行っていくことです。
いずれの手法においても要件定義からシステム開発、リリースに至るまでの各工程がありますが、その一つ一つの工程をさらにブレークダウンして作業単位まで細分化していくことが、プロジェクトを円滑に推進していくためのポイントです。
ブレークダウンを行うことで解決できる問題
- プロジェクトの終盤で進捗率が小刻みになる
- 工程通りに進捗しない
- 多くの作業が着手中になっていて実際と合っていない
- 担当者によって進捗率の定義が異なる
管理対象を小さな要素に細分化することで、作業状況の把握が容易になるというメリットがあります。たとえばプロジェクト全体の進捗状況を把握することより、ドキュメント一枚を作成するための進捗状況を把握する方がはるかに簡単でしょう。
こうした一つ一つの小さな作業のまとまりで進捗率を把握していくことで、プロジェクト全体の進捗率も正確に把握できるようになります。
「細分化された作業のうち、いくつが完了しているのか」という統計的な観点で管理を行うことがポイントとなります。
そうすることで、クリティカルパスの早期発見にもつながり、プロジェクトの軌道修正も行いやすくなります。
何事も早め早めの対応がプロジェクト成功の鍵を握りますが、IT分野においても同様で、早めの対策を講じるための第一歩が、工程の「ブレークダウン」です。作業を洗い出して担当者を割り振るだけでも、仕事の使命感を担当者に植え付けることができ、十分な効果が期待できます。
ブレークダウンの手法
ブレークダウンを行う手法としては、例えばWBSを利用してタスクを細分化し、ガントチャートでスケジュールを「見える化」することが挙げられます。
頭の中でぼんやりとしたスケジュールを立てて、なんとなく動き出すのと、作業を可視化してからスタートするのとでは、後者の方がスケジュール通りに進む可能性が高くなります。特にグループで作業を行っていく際には、作業の可視化が欠かせません。
また、タスクの前後関係や制約事項など細かいことは担当者が気づく可能性が高いため現場担当者を入れて工程表を作成することも重要です。
工程管理運用時のポイント
工程管理を運用する際、前項の発生しがちな問題への対策など、注意すべきポイントがあります。
進捗率の状態を定義する
予めマネジメント側で作業の作業工程とパーセンテージの関係を定義し、チーム共通のルールとして運用することが重要です。
設定したルールはプロジェクトの文書やWikiに記載するなどでいつでも参照できるようにすることや、ルール通りに運用されているかの確認を行い、チームに浸透させます。
開始・終了日の設定と完了の定義を明確にする
正しく工程管理するためには各作業の開始・終了日を設定することや、発生から完了までの経緯、完了理由を明確にしておくべきです。
作業計画時や作業着手時に完了の定義を担当者と認識を合わせ明示しておくことや、作業を完了する際には理由を記載するなどのルールを設け、これらをチームに共有する必要があります。
開始・終了日はプロジェクトの進行を遅らせないためや宙に浮いた作業をなくすために行い、経緯や完了理由はエビデンスとして残しておくことで、後々役に立つことが往々にしてあります。
担当者に情報をアップデートさせる
定例などであえて棚卸しを行い指摘していくことで、更新が必要であることをメンバーに意識させる、更新しておかなければ非効率であることを気づかせるなど、習慣化させる取り組みが必要です。
工程が予定どおり進んでいるか定期的に巡回する
工程は放置しておくと必ず遅延します。こまめに進捗を把握し、問題が発生していないか解決すべき課題がないか、マネジメント側で判断を下すべきものがないかを巡回し早期に遅延の動きをキャッチするよう取り組みます。
担当者を複数人にせず、ボールを明らかにする
作業の担当者を明確にすることは必須ですが、担当者として複数名割り当て記載するとその作業は宙に浮く可能性が高くなります。複数人に作業を割り当てることは問題ありませんが、誰が責任者としてその作業を管理するのかを明確にします。
少し先のタスクの事前準備の必要有無を確認する
作業を開始してから、実は事前準備が必要ですぐに作業に入れないことに気づくことがあります。ブレークダウンが適切に行われていれば避けられる事象ではあるものの、課題が出てきたり新たな作業が発生したりなどでプロジェクトの状況は変わるため、ゼロにはならないことが多いです。
そのため、少し先の作業内容を事前に確認しておくことがスケジュールの遅延防止に繋がります。
効率的な工程管理はシステムの導入が必須
現在、エクセルで工程管理を行っている企業も多いでしょう。エクセルは工程管理システムの導入にかかるコストが必要ないというメリットはありますが、運用負荷が高く、トータルコストで見たとき、コストの面でも運用の面でも効率がいいとは言えません。
工程管理システムを導入することで、前項までにあげた問題の解決や、運用のポイントの実施がしやすくなり、なにより日々の運用がシステム化され効率的にプロジェクトを進めることができます。
ここでは、クラウドログを例に、前項の「運用時のポイント」がシステムでどのように実現できるかを確認してみましょう。
運用ポイント:開始・終了日の設定と完了の定義を明確にする
システムでできること
クラウドログで作業登録をする場合、開始・終了日の入力項目が予め用意されています。
作業にはコメントを残すことができ、随時状況をコメントできることや、完了時にもコメントを残すことが可能で作業のエビデンスも無理なく記録できます。
運用ポイント:担当者に情報をアップデートさせる/担当者を複数人にせず、ボールを明らかにする
システムでできること
作業を登録する際担当者を設定できるため、メンバーは自分が担当している作業が一覧で確認でき、実施すべき作業や更新すべき作業が容易に把握できます。
また、状況に応じて担当者を変更することで、所在を明確にすることが可能です。
これにより担当者は作業に対し責任感を持つことができるため、更新作業を後押しします。
運用ポイント:少し先のタスクの事前準備の必要有無を確認する
システムでできること
クラウドログでは各作業の開始・終了日を設定しておくことで自動で見やすいガントチャートが作成されます。そのため、先のタスクをキャッチしやすく抜け漏れを防ぐことが可能です。
また、ガントチャートは予定と進捗状況を合わせて確認でき、先のタスクが計画通り実施できそうか、問題や遅延が発生しているかも把握しやすくなっています。
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まとめ
ここまで工程管理を計画、運用していく際のポイントについて解説してきました。計画時に作業のブレークダウンを行うことでプロジェクトの成功率を大幅に上げることができます。計画時には丁寧に作業のブレークダウンを行い、運用時は工程管理システムを利用することで効率的なプロジェクト運営を目指すことが望ましく、これにより生産性の向上やプロジェクトの成功率の向上が期待できるでしょう。
クラウドログは作業登録が時間をかけず簡単にできるよう設計されています。また、面倒な分析を自動で行ってくれる機能も備えています。無料トライアルも用意されているので、ぜひ一度お試しいただき、導入をご検討ください。