社内プロジェクトマネージャーで、数々のプロジェクトを率いてきた経験を持つ佐藤誠氏が語る、三回にわたって掲載する「プロジェクト管理の極意シリーズ」の第一回目です。
プロジェクト管理と一言で言っても、やるべきことは多くありますが、今回のシリーズでは受託開発のプロジェクトに焦点を当てて、それぞれのタスクごとにポイントをご紹介していきます。
第一回目では、全体を通してのプロジェクト成功の秘訣や、スケジュール作成、見積作成の際にやるべきこと・ポイント等をご紹介していきます。
本シリーズを読破して、今後のプロジェクト推進の参考にして下さい。
目次
1.プロジェクト成功の鍵はリスクヘッジにあり
プロジェクトを成功に導く鍵はリスクヘッジにあると言っても過言ではありません。
プロジェクトを推進する立場の人間は、まずこのことを頭に入れて、プロジェクトチームを率いることが大切です。
プロジェクトマネージャーとして、起こりうるリスクとその程度を予測して、対策を講じておくことは大切なスキルとなります。
リスクヘッジに関しては、知識や予測でカバーできる部分と、プロジェクトの経験から対策を行う部分の両面がありますので、経験者に話を聞くのも一つの手と言えるでしょう。
また、プロジェクトメンバーの選定においては、プロジェクトごとに必要なスキルセットを持ったメンバーが揃うように、日頃から社員だけでなく、協力会社の社員の働きぶりにも注視しておくことが求められます。
<酒井氏と対談を行う佐藤氏(右)>
2.任せられる仕事はメンバーに任せる!
プロジェクトの推進にあたっては、メンバーを上手に使うことが重要で、マネージャー自身がいろいろやり過ぎないということが一つのポイントとして挙げられます。
一見当たり前のようにも聞こえますが、自分自身で何でもやってしまうマネージャーも少なからずいるので、自分でやることとメンバーに任せることの線引きが必要です。
例えば、メンバーごとの工数の設定やタスクの割り当てに関しては、リーダークラスに委ね、リーダーから提出されたスケジュールを見て、その妥当性を判断することがマネージャーとしての役割となります。
妥当性を判断するポイントとしては、機能の山積みから割り出される作業量と、その作業量に対するメンバーの工数の整合性が取れているのかを重点的にチェックします。
機能の山積み表に関してはエクセル等で作成することになりますが、その作り方をメンバー間で共有できるようになると、チームとしてもより強化された体制が築けるようになるでしょう。
各メンバーは機能ごとに製造を担当することが多くなりますが、割り当てられたメンバーのスキルで、スケジュール通りにプロジェクトが進むのか、メンバーの意見も参考にしながら決定していきます。
また、一人のメンバーに担当が偏り過ぎていないかといったこともチェックします。
病気等の止むを得ない事情で、プロジェクトから離脱せざるを得ないこともあるためです。
これはあくまで一例ですが、メンバーに権限移譲することで、必要以上にマネージャーがプロジェクトに介入しすぎないことがポイントとなります。
3.見積金額策定
プロジェクトの見積金額については、基本的には工程ごとに単価が設定されており、その単価に工数(予算)を掛けたものを見積金額として提示します。
一般的な手法として、メンバーの職能レベル(≒役職)に合わせて単価を設定します。
ですので、単純にメンバーの数とそのレベルに応じて金額が増減するというイメージで間違いないでしょう。
見積金額の策定にあたっては、工数の面で、作成する機能のソースコードでどのくらいのファイル数が必要なのか、ページ数や機能数、ステップ数を元に妥当性を判断します。
これらをAI(Action Item)等にブレークダウンして、内部レビューや、エンドレビュー(エンドユーザによる評価)を繰り返し行うことで、最終的な見積金額を調整します。
お客様から金額面について指摘を受けることもあるので、お客様に納得して頂くために、提示金額の妥当性を説明するという点で、一つマネージャーとしての腕の見せ所となります。
4.スケジュール作成時のポイント=「お客様のスケジュールも調整すること」
スケジュールの作成にあたっては、見積金額の策定とも重複しますが、作成する機能のソースコードでどのくらいのファイル数が必要なのか、ページ数や機能数、ステップ数を元に妥当性を判断します。
そして、AI(Action Item)等にブレークダウンして、内部レビューや、エンドレビュー(エンドユーザによる評価)を繰り返し行うことで、最終的にスケジュールを調整します。
付き合いの長いお客様であれば、お互いの特徴を理解できている部分も多いので、話し合いがスムーズにいくケースもあります。
要件定義の段階で、お客様がどんな要望を持っているのか、丁寧にヒアリングすることが重要で、付き合いが長くなれば、その分だけそれまでの経験を活かせます。
そういった意味で付き合いの長いお客様とは、プロジェクトが進めやすくなるという利点もあります。
新規のお客様とも、要件定義の段階で要望を聞くだけでなく、自社側の体制やスケジュール面で伝えるべきことは伝え、少しでも仕事を進めやすい環境を整えることが重要です。
また、スケジュール管理という点においては、自社のスケジュールだけでなく、時にはお客様のスケジュールに対して意見を述べることもあります。
例えば、設計フェーズをお客様が担当している場合には、「3営業日以内にお願いします」や「5営業日以内にお願いします」等の期限を明確にして、お客様のスケジュール遅延が自社メンバーに響かないように、積極的にコミュニケーションを取ります。
とりわけ、結合試験や総合試験等のプロジェクト最終フェーズで遅れが発生することが往々にしてあるので、前段階でのスケジュールに余裕を持たせておくためにも、お客様側の協力が欠かせません。
お客様のスケジュールが遅れていて、リリース日も固定ということになると、自社メンバーにしわ寄せが来ることになるので、そのあたりのスケジュール交渉は欠かさずに行うことがポイントです。
5.タスク(作業)の振り分けノウハウ=「体制強化はプロジェクトの山場に!」
基本的な考え方として、製造フェーズから試験実施フェーズにかけて、プロジェクトの山場になることが多いので、その期間に人員を厚くできるような体制をとっておくことがポイントとなります。
また、スケジュールのブレークダウン(タスクの細分化)をきちんと行っておくことで、振り分けをしやすくなるので、タスクを大きな単位から小さな単位へと分割しておくことが重要です。
担当フェーズの割り振りとしては、似たようなスキルセットが必要な箇所を、同じメンバーが対応するように組み合わせます。
具体的には、基本設計・試験仕様書作成・エビデンス作成・品質担保といったタスクを同じグループ、同じメンバーに対応してもらいます。
上記のタスクについてはドキュメント作成という点で、似たようなスキルが求められるので、こういった組み合わせをすることが多くなります。
また、製造と試験実施を同じグループ、同じメンバーで対応してもらいます。
製造や試験実施工程に関しては、仕様書等のドキュメント作成を担当したグループの中から数人を割り当てることで、体制を厚くします。
製造中や各種試験を行った際にトラブルが起きて、手戻りが発生するということも往々にしてあるので、この段階で人員補強を行うことによって、プロジェクトを安定的に動かすことが狙いです。
スケジュール的にも大まかに、ドキュメント作成→製造→試験実施→エビデンス・品質担保→リリースという具合に進んでいきますので、上記の組み合わせでプロジェクトを上手く動かすことが可能となります。
プロジェクト全体を見渡した時にどこが山場になりそうなのかを把握しておくことで、体制に強弱をつけて推進していくことがポイントです。
まとめ
プロジェクト管理の極意シリーズ第一回目はいかがでしたでしょうか。
最初の段落でも紹介しましたが、プロジェクトを率いる立場の人間は常にリスクヘッジをとることが求められます。
いつ、いかなることが起きても良いように、日頃から対策を考えておき、いざという時に冷静な判断を下せる準備をしておくことが大切です。
そのためには、思い切ってメンバーに権限移譲をすることです。
本来は、マネージャーがのんびりしていてもプロジェクトが上手く動いていることが理想でしょう。
マネージャーはマネージャーとして、次の案件や新規プロジェクトのことも考えなければなりません。
いざという時だけ、マネージャーがプロジェクトに関わるという体制を築いておくことができれば、それは理想のプロジェクトチームと言えるでしょう。
そういった環境を整えられるように、プロジェクトから学び、改善を重ねていくことが大切です。
残り2回のシリーズも是非ご覧になって、プロジェクト推進のヒントにして下さい。
第2回目は協力会社も含めたプロジェクトメンバーの調整方法についてご紹介します。