プロジェクトの成功にはプロジェクトメンバー間の良質なコミュニケーションが欠かせません。
プロジェクトの成功と言うと、見積りやスケジュール作成・管理を適切に行うこと、WBSで作業をしっかりと洗い出すこと、リスクマネジメントをきちんと行うなどといったことがすぐに思い浮かぶかもしれません。
当然こうしたことも重要ですが、プロジェクトマネージャーの立場の人間であれば、プロジェクトスポンサーやメンバーとのコミュニケーションが、プロジェクト成否の鍵を握っているといっても過言ではありません。
PMI(プロジェクトマネジメント協会)が2013年度に発表したPulse of the Professionという報告書によれば、プロジェクトに投下した資金のうち56%が、コミュニケーションのまずさによって無駄になっていると結論付けています。
それだけコミュニケーションの重要性が高まっているということであり、どういったコミュニケーションをとれば良いのか、そのポイントについてご紹介していきます。
コミュニケーションに対するさまざまな障壁
コミュニケーションには大きく分けて大小2つの障壁があると考えられます。
まず大きな方の障壁とは、コミュニケーションを明らかに阻害すると考えられるもので、以下の2パターンが挙げられます。
まず、その代表格として挙げられるのが、“地理的条件”です。
見込み顧客の所在地があちこちに散在していると、コミュニケーションをとるのがその分だけ難しくなるので、対処方法を検討する必要があります。
もちろんEメールや電話等も有効な手段となりますが、より重要な内容となれば、テレビ会議・電話会議での対応や、場合によっては現地に赴いて話し合いを行うことも求められます。
より公式な議題であればあるほど、その内容伝達を行う際の距離感を大事にした方が良いでしょう。
2つ目の大きな障壁は“言語の違い”です。
文化を含めた言語の違いへの対応策は、プロジェクト計画段階で入念に練っておくことが大切です。
言語の違いは、その場しのぎのコミュニケーションでは取り繕うことができないからです。
特にビジネス上の話し合いとなれば、ちょっとした解釈の違いが後で大問題につながる可能性も否めませんので、きちんとした対応策を考えておくことが求められます。
こういったケースでは、言語の異なるメンバーを孤立させるのではなく、該当する言語・文化圏と同じメンバーをプロジェクトチームに入れて、コミュニケーションの手助けをしてもらうことが重要です。
仕事の面だけでなく、悩みの相談などでも同じ言語を話せる人がいることで円滑に進むケースが往々にして見られるので、そういったメンバーを孤立させない体制作りをすることが欠かせません。
ここまで大きな障壁について見てきましたが、続いては小さな障壁についてです。
コミュニケーションによる小さな障壁として挙げられるのが、プロジェクトメンバーによる“成果物の解釈の仕方”です。
成果物に対して疑念の気持ちを持っているメンバーが多くいるようだと、そのプロジェクトは上手くいかない可能性が高まります。
ビジネス・コンセプトに欠陥がある場合や、プロジェクトが成功するはずがないと思っているメンバーが多いケースなどは、リスクが高まるので注意が必要です。
特に初期の段階では、大きな問題ではありませんが、徐々に悪いうわさがメンバー間で広まっていくようだと危険です。
そのためプロジェクト開始段階で、メンバーとビジョンやビジネス・コンセプトの共有を適切に行っておくことが求められます。
プロジェクト中も定期的にメンバーと話し合うなど、必要に応じてメンバーのモチベーションを維持し続けられる環境を整えていくことが必要です。
コミュニケーションによる大きな障壁と小さな障壁をクリアしていくことが、プロジェクトの安定稼働につながります。
よく聞くことは重要なコミュニケーション
よく聞く能力は、プロジェクトマネージャーが身につけるべき最重要の能力の1つです。
相手の話をよく聞くことで、相手の意思や考えていることを理解するだけでなく、自分自身が発したメッセージが相手に適切に伝わっているのかどうかを確認することもできます。
つまり、自分自身が一方的に話すだけではなく、双方向のコミュニケーションを心がけることによって、伝達内容の齟齬を防げる可能性が一段と高まります。
そういった意味でも、相手の話を聞くことは重要なコミュニケーションとなります。
プロジェクト報告書や資料に目を通すことも重要ですが、やはり実際に現場で働くメンバーの声に耳を傾けることで、よりプロジェクトの進捗状況を正確に把握することができます。
さらに注意深く話を聞くことで、社内政治の問題も、それが大きくなってプロジェクトの足が引っ張られる前に察知することができます。
聞き手としての能力を高めるためのヒントを以下に提示します。
- 聞き手として能力を高めるには、
- 相手が話している時は、自分の発言を控える。
- 相手の話を途中で遮らない。途中で遮ってしまうと、相手の真意を把握できない可能性が高まる。
- 相手のボディランゲージや顔の表情にも注目する。そこから言葉には出ないマイナスの感情や課題を読み取れることも少なくない。
- 電話や人の出入りで邪魔されることがないように配慮する。
- 相手の話が終了したら、相手の話を自分の言葉で言い換え、自分の理解が正しいかどうか確認してもらう。
プライベートな関係でも相手の話を聞くことは重要ですが、ビジネスの場においてもその重要性は変わりません。
双方向のコミュニケーションを心がけることで、未然の課題解決につながることもあるので、その重要性を認識して意識的に行動することが大切です。
コミュニケーションをとるタイミングと媒体の重要性
メッセージの発信には、タイミングも重要です。
情報提供が早すぎると、余計なことを考えたり、後々に与えられる情報との食い違いが発生したりして、現場が混乱する可能性もあります。
特にプロジェクトの初期段階においては、必要な情報とそうでない情報を明確にして、必要な情報だけをメンバーに提供することが重要です。
そうすることで、プロジェクトのスタートから序盤にかけて、無事に乗り切ることができます。
反対に情報提供が遅すぎると、プロジェクトが先に進んでいて、チームが対応できない可能性もあります。
特にプロジェクト中盤から終盤にかけての情報伝達は、タイミングを意識することが大切です。
特に何らかの意思決定の伝達が遅くなると、プロジェクトメンバーは自分たちを交えずに意思決定を行ったのだと思いこみ、モチベーションが低下するケースも見受けられます。
例えメンバーの同意が必要ない事案でも、タイミング良く情報提供を行うことで、メンバーは自分たちが承認を求められ、意思決定のプロセスに加わったのだと思い、それが仕事のモチベーションにつながります。
そういったことがチーム内に好影響を与えますので、プロジェクトマネージャーは情報提供を行うタイミングの重要性を理解して行動を取ると良いでしょう。
当然、プロジェクトスポンサーへの情報伝達のタイミングも重要で、メンバーに伝える時と同様に、必要な情報を必要なタイミングで提供することで、プロジェクトへの賛同・承認を得ることにつながります。
情報提供が早すぎることよりも、遅くなることの方がプロジェクトへのリスクにつながる可能性が高まるので、こまめに連携しておくことが大切と言えるでしょう。
また、コミュニケーションを取るための媒体も重要で、伝達内容によって使い分けることが求められます。
一番リスキーな考え方はEメールを送ってこと足れりとすることです。
プロジェクトスポンサーやメンバーは、毎日おびただしい数のEメールを受信しており、「迷惑メール」なども見受けられるため、次第にEメールは無視されやすくなります。
読んでいるケースでも、文面だと送り手の意思が受信者に適切に伝わるとも限りません。
ちょっとした作業内容や、連絡事項であればEメールでも問題ありませんが、Eメールに頼り過ぎるのは危険なので、使い方を弁えておく必要があります。
プロジェクトメンバー全体での説明会や進捗会議の実施、上層メンバーでのスタッフ会議、プロジェクトスポンサーへのプレゼンテーション、メンバー個別での会議、相談事項など、ケースに応じて、コミュニケーションの取り方を工夫するべきです。
情報が重要であればあるほど、対面でのコミュニケーションを取ることが大切です。
このようにコミュニケーションを取るタイミングと媒体を意識することが、プロジェクトを安定的に稼働させることにつながります。
まとめ
ここまでご紹介したコミュニケーションに関するポイントの他に、専門用語と略語の使い方にも注意が必要です。
とりわけIT業界においては、横文字や略語が多くなるので、相手がどの程度の知識レベルやスキルを持っているのかをきちんと判断した上で、話し合いを行う必要があります。
知識が豊富な側の人間からすれば、これぐらい知っていて当然だろうという考えもあるでしょうが、聞き手に内容が伝わっていなければ何の意味もありません。
そういったケースは、プロジェクトの進捗にマイナスとなる可能性が高いので、特に専門用語や略語を使う際には相手の理解を確かめることが大切です。
特定の分野に精通している人間が、そうでない人間にちんぷんかんぷんな説明をしていても双方に何のメリットもありませんので、そういった専門用語や略語を使う際には、最初にその言葉の定義を明確に示すか、全く使わないようにすることが大切です。
ビジネスにおけるコミュニケーションでは、双方が合意した上で仕事を進めていくことが求められます。
これまでのコミュニケーションの取り方を振り返ってみて、見直せるところがあれば改善するのも大切なことでしょう。