なんらかのプロジェクトに関わったことがある人なら、一度は耳にしたことがあるだろうWBSというワードですが、実際に作成しようとすると、簡単にできるものでもありません。
ある程度の知識と経験がものをいう類のものですので、相応の立場の人間が作成することになります。
WBSの作成と活用法次第でプロジェクトの方向性が定まってくると言っても過言ではないので、時間をかけて制度の高いものを運用していくことが大切です。
そのための考えた方やルール、タスクの依存関係等についても紹介していきます。
WBSを作成したことがある方も、そうではない方も読みやすい内容となっておりますので、是非ご一読下さい。
1.WBSの意味と活用ルール
WBSとはWork Breakdown Structureの略で、プロジェクト全体を細かな作業に分解した構成図のことです。
プロジェクトの完成に必要な作業を組織化して要約した文書ということもできます。
システムの更新プロジェクトであれば、例えば「顧客の要求事項」、「システム設計」、「システム計画」、「データ移行」、「テスト」、「組織の受け入れ体制」などがその文書にあたります。
WBSを作成することで、プロジェクトの主要部分を明らかにして、各メンバーが何をすべきか明確に示すことができます。
また、各メンバーが行うべき作業とプロジェクト全体での位置づけをチームメンバーに周知させるという効果もあります。
WBSはプロジェクト成功の土台となるもので、資源ニーズやスケジュールを決定する大事な要素となります。
特に大規模プロジェクトの場合のWBSは通常、完成するまでに何度か改訂されるのが一般的であり、必要に応じて足りない箇所や余分な作業がないか修正していくことがポイントとなります。
中核メンバーや主要ステークホルダーに作成したWBSを見てもらい、必要な作業が網羅されているか、漏れがないかなどを確認してもらうことも重要です。
WBSを作成する際のルールとして、「8/80ルール」と「7×7ルール」が挙げられます。
「8/80ルール」とは、WBSの最下位の要素(=ワークパッケージ)がおよそ8時間以上、80時間以内になるまで行うというものです。
このルールは、1日(8時間)に満たない時間で完了するものは、ワークパッケージとして小さすぎるので、他のものと組み合わせることを考え、反対に完了に2週間(80時間)を超えるものは、大きすぎるのでさらに細分解する、というものです。
このルールもそれほど縛られる必要はなく、完了までに1年半から2年を要するようなプロジェクトであれば、ワークパッケージを1ヶ月単位とすることもあり得ます。
プロジェクトの期間に応じて柔軟な対応をとることが求められるでしょう。
続いて、「7×7ルール」とは1つの親要素にぶら下がる子要素の数は7程度まで、WBS全体の階層は7階層程度までという子要素の数と、階層の深さについての目安となるものです。
子要素の数が多くなり過ぎると、WBSが見づらくなるので、同じ親要素を持つ子要素の数が8を超える場合は、1つ上の階層に戻って、親要素を増やすのが良いでしょう。
また、階層を8階層以上に分けなければならない場合は、総パッケージ数が数千個にも及び、実用的なWBSとは言い難くなってしまいます。
その場合は複数のプロジェクトに分割するか、WBSの分解の粒度を荒くする必要があるでしょう。
8/80ルール、7×7ルールはともに厳密なルールというわけではなく、目安として考える指標と理解して頂ければ構いません。
こういった指標をもとにしていくことで、より精度の高いWBSを作成することができるようになります。
2.WBSを活用してタスクの依存関係を見極める
依存関係とは作業の間の論理的結びつきのことです。
主に4種類の依存関係に分けることができ、終了―開始型(FS)、開始―開始型(SS)、終了―終了型(FF)、開始―終了型(SF)があります。
4種類の具体例として、家を建てるケースについてご紹介します。
- 終了―開始型(FS:Finish-to-Start)
タスクBはタスクAに依存しているため、タスクAが終了するまでは、タスクBを開始することができません。
例えば、「基礎の掘削」と「コンクリートの流し込み」という2つのタスクがある場合、「コンクリートの流し込み」は「基礎の掘削」が完了するまで開始することができません。
- 開始―開始型(SS:Start-to-Start)
タスクBはタスクAに依存しているため、タスクAが開始されるまでは、タスクBを開始することができません。
両方のタスクを同時に開始する必要はなく、例えば「コンクリートの流し込み」と「コンクリートのならし」というタスクがある場合、「コンクリートの流し込み」タスクが開始されるまで、「コンクリートのならし」タスクを開始することができないというケースが当てはまります。
- 終了―終了型(FF:Finish -to-Finish)
タスクBはタスクAに依存しているため、タスクAが終了するまでは、タスクBを終了することができません。
例えば、「配線」と「導通チェック」という2つのタスクがある場合、「導通チェック」は「配線」が終了するまで終了することはできません。
- 開始―終了型(SF:Start -to-Finish)
タスクBはタスクAに依存しているため、タスクAが開始されるまでは、タスクBを終了することができません。
例えば、屋根を支える梁の支持材が別の現場で制作される建設関係のプロジェクトがあった場合、「梁支持材の配送」と「屋根組み」の2つのタスクがあります。
「屋根組み」は「梁支持材の配送」タスクが開始されるまで、終了することができません。
タスクは以上の4種類の依存関係に分類することができ、作業間の依存関係を考慮することで、主要作業が期限通りに終了しなければ、プロジェクト全体が足を引っ張られるということを頭に入れておくことが大切です。
3.正確なWBS作成のために、作業の洗い出しが重要
複雑なプロジェクトのWBSの作成には時間がかかるものです。
WBSは、ステークホルダーから取り込んだ要求事項を、具体的な作業に落とし込む手法と言うこともできます。
作業をリストアップすることで、必要な作業が明確になり、実施順序を論理的に決定することができます。
WBSを作成する際の注意点として、作業の順序づけや所要時間、予算の見積りは初期段階ではやらないということです。
まずは、とにかく作業を洗い出すことに専念し、上記のようなことは作業の洗い出しが完全に終了してから取り掛かることにします。
また、WBSの作成はプロジェクトを1人で行う場合以外は、複数人で行うのが基本であり、ワークパッケージの洗い出しには、チームメンバーの協力が欠かせません。
複数人で行うことで、WBS作成段階で中核メンバー間のコミュニケーションもとりやすくなり、懸案事項になる可能性のある重要な作業の見落としも防ぐことができます。
作業を洗い出し、ワークパッケージとしていくには相応の経験が必要です。
そのため、WBS作成のメンバーの人選は、知識・経験を考慮して適切に行うことが大切です。
作業を適切に洗い出すことができた段階で、どのメンバーを割り当てるかといったことや、具体的なスケジュールを考えていきます。
WBS有効利用の一つの考え方として、ワークパッケージの所要期間をなるべく1週間に近づけるというものがあります。
そうすることで、週一回行う定例会議や週報の場で報告がはっきりするためです。
おおよそ全てのワークパッケージが1週間程度や1週間以内であれば、毎週の報告の際に完了しているはずですし、完了していなければ早期の問題発見につながります。
問題を早期発見することで、その後の対策も講じやすくなり、プロジェクトに致命的なダメージを与える前に解決できる可能性が高まります。
上記の例は一つの考え方ですが、WBSを上手く活用することで、プロジェクトの安定稼働につなげられるというメリットがあります。
大規模なプロジェクトとなれば、プロジェクトマネージャーが全メンバーの進捗を細かく把握するのは難しくなるので、上記のような工夫をすることで、プロジェクトを推進していきやすくなります。
プロジェクトが変わっても、ある程度中心メンバーが変わらなければ、WBSを有効活用することで、徐々にメンバーの進捗管理の精度も高まっていくと考えられます。
まとめ
WBSを作成することで、やるべき作業が明確になる、スケジュールを組める、役割を分担できる、工数見積が可能になる、進捗管理が可能になる、目標が明確になるなどといったメリットが多くあります。
多くのプロジェクトは一人で回すことはできないので、WBSのような考え方を持って適切に作業・役割分担を行っていくことが大切です。
また、WBSを作成することによって円滑なコミュニケーションを図ることが可能になります。
普段からWBSに記述された言葉を使うことで、チーム内、プロジェクトマネージャーとメンバー間、発注者と受注者間のコミュニケーションギャップを防ぐ効果があります。
プロジェクトが失敗する原因の一つに目標や成果物に対する認識の相違が挙げられます。
WBSがあることで、認識の相違を防ぐことにつながり、顧客が求める成果物の完成度も高まることが期待されます。