ガントチャートでは、各作業を時間軸上に表すとともに、作業どうしの依存関係や担当者を表すことができます。
工数管理を開始する上で、ガントチャートを利用することが管理を継続的に行っていくための近道と言えるかもしれません。
ガントチャートは主に、製造、建築、土木などの業種だけでなく、システム開発等のプロジェクトでも利用でき、幅広く工程の管理に用いられている古くからのマネジメント手法です。
プロジェクトマネージャーだけでなく、チームメンバーも全体のスケジュールを把握できるという利点があります。
そのガントチャートをいかに利用していけば効果的な管理を行えるのか、わかりやすく解説していきます。
1.工数管理とは
まず、工数をわかりやすくいうと「作業時間」に近い概念と言えます。
主にシステム開発や製造の現場にて使われる用語と言えるでしょう。
IT業界では、作業を行うメンバーの数にかかる時間を積算したものを意味することも多く、「人日」や「人月」(1人が1ヶ月従事する作業が1人月)といった単位で表します。
その工数を管理するのが、工数管理ということになります。
つまり、工数管理は「プロジェクトや事業ごとの作業時間の管理」と考えることができます。
具体的には、どれくらいのメンバーが、何のプロジェクトのどのフェーズ(工程)にどれくらいの時間を費やしているのかを測定・分析することで、現状把握と課題への未然対策を講じるための組織的な取り組みのことを指します。
特定のプロジェクトに着目することで、工数計画と工数実績を比較し、開発の遅延を予測することができます。
また、過去のプロジェクト実績をもとに、新規プロジェクトの立ち上げ時にスケジュールやリソースの見積りの参考にすることも可能です。
工数管理は管理職だけで行うのではなく、全従業員を巻き込んで、時間に対するアウトプット、つまり成果が各メンバーに見合ったものになっているのかを周知徹底させることで、より全社的に生産性を高めていくことができます。
従業員の勤務時間に対する生産性は大雑把にしか把握されていないケースも散見されますが、組織の改善目標に応じて、適切な工数管理と分析を行っていくことが、組織全体をレベルアップさせるために必要なことと言えます。
2.工数管理を行う上で障壁を乗り越えるための啓蒙活動
計画通りに進むプロジェクトを率いることができれば、それはプロジェクトマネージャーにとって負担が少なくなることを意味するでしょう。
一方で、多くのプロジェクトはなかなか計画通りに整然と進めることはできず、プロジェクトメンバーたちは工程遅延のキャッチアップや手戻り対応のために、複数工程を並行作業で進めていかざるを得ない状況となります。
そうなっていくと、どの作業にどのくらいの時間がかかったのかをきちんと入力していくこと自体難しくなり、そもそもプロジェクトが上手く立ち行かない厳しい状況の中、工数実績を日々入力することすらできず、一週間分やひどい時には一ヶ月分をまとめて入力するなどということも起こるかもしれません。
後でまとめての入力となれば、データの正確性も失われてしまう可能性があります。
ここまで状況が悪化してしまうと、もはや工数実績入力をしていること自体、あまり意味をなさなくなってしまうので、そうなる前に改善が必要です。
プロジェクトマネージャーとしても、その月の途中段階で原価状況を把握することができず、締め日になって初めて予定と実績に大きな乖離があることに気づき、慌てて現場に状況を確認するという羽目になりかねません。
そうならないためにも、メンバーに対して工数実績入力を行ってもらうための啓蒙活動が必要となります。
すべてのプロジェクトメンバーが自発的に、できるだけタイムリーに正しく工数実績を入力するよう、システム開発の原価管理の仕組みを理解してもらい、プロジェクト稼働実績収集の重要性をしっかり認識して頂くように、粘り強く説明を続けていくことが重要です。
そうした啓蒙活動の一環として、プロジェクト原価状況の変遷を分かりやすく「見える化」した資料や、プロジェクトの稼働実績データ収集の結果得られた成果などを、定期的にプロジェクトメンバーにフィードバックするなどといった取り組みも有効です。
粘り強く地道な啓蒙活動をしていった結果として、プロジェクトメンバー全員が工数実績を正確に入力することで初めて、プロジェクトマネージャーはプロジェクトのリアルタイムな状況を把握して、必要に応じて対策を講じることができるようになります。
こうした好循環を生み出すことで、より強力なプロジェクトチームを作り上げることができるようになります。
3.ガントチャートの特長
ガントチャートは「線表」、「工程表」などとも呼ばれ、スケジュールの全体像を可視化するインターフェースが特長です。
プロジェクト計画と実績(予実)を対比して表示できるという特長もあります。
ガントチャートは1800年代後半に開発された表示法で、開発者ヘンリー・ガントの名前にちなんで、こう呼ばれるようになりました。
ガントチャートの見方としては、表の上部に左から右に向かって日付を記入し、表の左側部分には上から下に作業を列挙します。
図の中に横線を引いて作業の開始・終了を表現します。
月・週・日・時間などの単位は、プロジェクトに合わせて決定します。
判断の目安としては、おおよそ1年以上かかるプロジェクトであれば、月単位か週単位とするのが良いでしょう。
一方で30日以内のプロジェクトであれば、日単位が適当です。
作業の依存関係が複雑になると、単純なガントチャートで示すことができなくなるので、その場合には、ネットワーク図を併用するか、プロジェクトマネジメント用のソフトウェアを使うのがベターです。
また、複雑なプロジェクトのスケジュール詳細をメンバーに伝えるのには、ガントチャートは向いていないので、別途作業リスト等を準備して、そのリストに担当者と期日を記入したものを使うのが良いでしょう。
ガントチャートの最大の特長は、スケジュールを可視化することにあるので、そのメリットを最大限活かしていくことが、ガントチャート利用の有効なテクニックと言えます。
4.ガントチャートが工数管理に適している理由
ガントチャートの最大の特長である、スケジュールを可視化するという点で、工数管理を開始するにあたって取り掛かりやすいことが、工数管理に適している理由と言えます。
つまり、工数管理を開始するにあたっては、各メンバーに工数実績入力をお願いすることになりますが、入力する側としても、何らかのメリットがないと入力に対するモチベーションが上がりにくくなります。
そういった意味で、ガントチャートは視覚的に分かりやすく、どういった結果が得られるのか想像しやすいことが入力のモチベーションにつながると考えられます。
プロジェクトを作業単位に細分化して、スケジュールと担当者を記入していくというのは、多くの現場で取り組んでいることでしょうが、ガントチャートはそれらを可視化して、さらにプロジェクトの全体像も一目でわかるというところに最大のメリットがあります。
例えば、毎週プロジェクトチームで定例会議がある場合に、単純に口頭で現状報告するだけでは、メンバー同士が他メンバーの状況を把握することが難しいのではないでしょうか。
よくあるケースとして、プロジェクトマネージャーと書記と、進捗状況の発表メンバーだけが会議に積極的に関わっているという状況も想像に難くありません。
一方で、定例会議の場でもパワーポイント等でガントチャートを表示しながら会議を進行していけば、一目で作業の全体像とスケジュール感、どの作業を誰が担当しているのかもわかります。
さらに計画に対する実績も一目でわかり、スケジュールの遅延についても把握することができるので、メンバー全員で進捗状況を確認することができます。
そうすることで、プロジェクトマネージャーだけでなく、メンバーにもプロジェクトが上手くいっているのか、そうではないのか、緊張感を持って意識付けすることができるでしょう。
上手くいっていないのであれば、誰かがフォローする等の対策も取りやすいですし、チーム全体でプロジェクトを推進していこうとする意識が芽生えます。
もちろんプロジェクトマネージャーが指示して、フォローを頼むメンバーを指定するというやり方でも問題ありませんが、メンバー間で自然発生的にそういった話し合いができれば、より強固なプロジェクトチームを築き上げることができます。
そういった意味で、ガントチャートでの工数管理はチームメンバーにとっても有効であると言えます。
工数管理を行うことで、生産性を高めて、業績を改善していくという目的を達成することも重要ですが、ガントチャートでの工数管理によって、第二、第三のプロジェクトマネージャーが出現してくれば、組織にとって大きなプラスとなります。
まとめ
ガントチャートは、各作業における開始→終了の時期が視覚的に簡単に理解でき、工程途中でも作業進捗状況をリアルタイムに把握することができます。
それに伴って他の作業にどのような影響が出るのかといった部分までトータルに把握できるので、プロジェクト全体においても効率アップにつながることが大きなメリットと言えます。
一方で、あまりにも多数の工程作業が入り組んだガントチャートでは、複雑になり過ぎて逆に把握しにくくなってしまう可能性もあるので、その使い方には注意が必要です。
プロジェクトのイレギュラーな変化や複雑化には対応できない部分もあるので、ガントチャートに全てを委ねるのではなく、あくまで管理の補助手段としてのコミュニケーションツールと考えておくことも大切でしょう。
それでもなお、ガントチャートは作業工程を表現して、作業の効率化、生産性アップのためには欠かせないものであることには変わりないと言えましょう。