プロジェクトを推進していく上で、クリティカルパスと呼ばれる、最重要の経路をいかに攻略していくかがポイントとなります。
クリティカルパス上の作業の遅れは、そのままプロジェクト全体の遅れへとつながるリスクがあるので、プロジェクトチームの中でもいわゆるエースと呼ばれるようなメンバーを投入して進めていくことが鍵となるでしょう。
クリティカルパス以外の非クリティカルと言われるパス上の作業との兼ね合いも含めて、スケジューリングの考え方に関してもご紹介していきます。
資源(リソース)配分の際に注意すべきポイントも6つ紹介しているので、今後、プロジェクトを率いる際の参考にして頂ければ幸いです。
目次
クリティカルパスとは
クリティカルパスとは一言で表現すると「重大な経路」のことを指します。
具体的には、プロジェクトの開始から終了までの作業をつなぐ複数の経路の中で、所要時間が最長となる経路のことです。
プロジェクト作業の中で、自由度が最も低い作業がつながっている経路と考えるとわかりやすいでしょう。
つまり、クリティカルパス上の作業に遅れが発生すると、それがそのままプロジェクト全体の遅れにつながってしまうことになります。
ですので、計画段階の重要性もさることながら、プロジェクト稼働中も計画を意識しながら、進捗遅れのないように進めていくことが重要です。
クリティカルパスの考え方はシンプルで、上記でも述べたように、クリティカルパス上の作業のどれかが遅れると、プロジェクト全体が遅れるというものです。
しかし実態はこれ以上に複雑で、重要度が低い作業がクリティカルパス上にあることや、諸々の事情で特定の作業がクリティカルパス上にあることもあります。
プロジェクトを率いる立場の人間としては、こうしたことに惑わされないように、優先作業リストを別に作り、最重要の作業を把握しておくことが求められます。
クリティカルパス上の作業リストと優先作業リストを併用して、重要作業に注力することが大切です。
また、当初計画から作業の依存関係や所要期間の見積り、ネットワーク等に変更を加えた場合は、クリティカルパスを再評価し、スケジュールを見直すことも忘れてはいけません。
作業順序を変更したのに、スケジュールはそのままということがないように注意が必要です。
ネットワーク図作成で、クリティカルパス早期発見へ
ネットワーク図を作成することで、クリティカルパスの早期発見につながります。
各経路ごとに所要期間を合計すれば、最長の時間を必要とする経路がわかるからです。
ネットワーク図とはプロジェクトの作業をつないだもので、作業の順序づけをすることで以下のような効果が見られます。
- 作業の順序や依存関係がわかる
- スケジュール作成のための参考となる
- 作業の進捗・完了の監視に利用できる
- マイルストーンの間の関係がわかる
- 作業単位に分解して、分析と順序づけを行うことで不確実性を低減する
ネットワーク図は主に作業の流れを示すもので、依存関係を左から右に矢印で結んで作成します。
小規模プロジェクトであれば、WBSを作らずにネットワーク図で代用することも可能ですが、プロジェクト規模が大きくなるようであれば、WBSを最初に作成してからネットワーク図を作るのが良いでしょう。
というのも、ネットワーク図は作業の順序を示すだけで、WBSのようにプロジェクトの全体像を階層構造で示すわけではないためです。
ネットワーク図は作業の全体像とその流れを一目で確認することができるので、プロジェクト開始前やプロジェクト中もメンバー同士で目を通しておくことで、プロジェクトの安定的な稼働につなげるための補助的な役割を果たしてくれます。
クリティカルパス上の作業とそれ以外の作業スケジュールを調整する
プロジェクトを作業単位に分解して、ある程度の目安となるスケジュールができたら、それを見直して、配分した資源が必要な時期に投入できるかどうかを確認します。
まずクリティカルパス上(日数的猶予が0日)の作業について検討して、そこから他の作業へと広げて考えていきます。
特定のメンバーの負荷が多すぎたり少なすぎたりしないように、スケジュールを組んでいくことが重要です。
クリティカルパス上にはない(非クリティカル)の作業スケジュールの調整方法には以下の3点が挙げられます。
- 非クリティカルパスの作業を全て最遅の時期にスケジューリングする。こうすることで、クリティカルパス上の作業を遅らせることなく、どれだけの非クリティカルの作業を遅らせることが可能か確認することができる。
- 非クリティカルパスの作業を全て最早の時期にスケジューリングする。こうすることで、必要な資源を早期に解放してクリティカルパス上の作業に集結させることができる。
- 非クリティカルな作業の実施時期を、状況に応じて判断する。まず、マイルストーンを守ることを優先し、次に残りのスケジュールを調整する。こうすることで、スケジュール上の自由度が生まれ、クリティカルパス上の作業への資源投入をしやすくなる。
資源配分の際には、プロジェクトマネージャーに大きな役割が求められます。
プロジェクトマネージャーは全ての資源の可用性をできるだけ具体的に把握しておき、資源の配分は適材適所に行うことが大切です。
とりわけクリティカルパス上の作業については、用心深く人員配置を行うことが重要で、必要なスキル・経験をもったメンバーを割り当てられる体制を準備しておくことが求められます。
スケジュール作成に関しては一度で仕上げようとする必要はなく、バランスのとれたスケジュールになるまで、何度でもやり直して構いません。
1回で完成したスケジュールに沿ってプロジェクトを進めていくのはリスクがあるので、最低3回程度を目安に有識者を交えながらスケジュールを作成していくことが大切です。
資源配分の前に注意しておくべきポイント6つ
スケジュールを作成して、いざ資源配分をすることになった場合に注意しておくべきことを6つ確認しておきます。
1.各メンバーの一日あたりの正確な稼働時間を把握しておく
1日8時間稼働と考えるのは早計かもしれません。
8時間稼働するとしても、すべてを該当プロジェクトに割けるとは限りません。
トイレに行く、喫煙所でタバコを吸う、電話応対をする、メンバーや他の社員と雑談する、コーヒーブレイクを挟む、雑務をこなす、といった具合にプロジェクトに割ける正確な時間は、1日8時間に満たない場合がほとんどです。
目安としては1日6時間30分程度と考えておくのが良いでしょう。
また、管理業務の時間も考慮しておくべきで、例えば全社会議、チーム会議、日報、週報、出張等にかかる時間も想定しておくことが大切です。
成果物や書類確認にかかる時間など、実際のプロジェクトを進めるだけの時間だけでなく、その他の作業に時間を取られるケースも増えるので、その辺も考慮する必要があります。
2.メンバーは他のプロジェクトも兼任していないか
プロジェクトメンバー全員が一つのプロジェクトに専念して取り組めれば、それ以上の話はありませんが、実態としてはなかなかそういうわけにはいきません。
別のプロジェクトにも参画しているような兼任メンバーが存在することも少なくないので、そういったメンバーが自分たちのプロジェクトにどれくらいの時間を割けるのか、あるいは兼務しているプロジェクトにどれくらいの時間を割かなければならないのかといったことを、適切に把握しておくことが大切です。
そこを見誤ると、プロジェクトの遅れに直結することになるので、リスクマネジメントとして、緊急時のバックアップ体制も考慮しておくことが求められます。
3.専門能力を持つメンバーを有効活用できているか
プロジェクトの人員配置の重要な点で、専門能力を持つメンバーをその専門性が発揮できる場所で起用できているか、考慮すべきポイントです。
頭では理解しているつもりでも、いざプロジェクトが始まってみると、専門性を活かせない場所での作業を任されることもあるので、各メンバーが最も力を発揮しやすいポジションはどこなのか、常に頭に入れておくことが求められます。
各メンバーの生産性とスキルを最も発揮しやすいポジションでプロジェクトを進めていくことができれば、そのプロジェクトは安定する可能性が高まります。
4.メンバーの追加に要する時間を考慮しているか
正社員やパートタイムの増員に関しては、経営陣やプロジェクトスポンサーに承認してもらうのにかかる期間が、プロジェクトによってまちまちです。
短ければ1週間以内で終わることもありますし、長ければ2ヶ月程度かかることもあるでしょう。
平均的には4週間~6週間を見ておけば問題ないでしょうが、承認されてからもタスクが多く用意されています。
候補者の募集に始まり、面接、人物照会、採用条件の提示、決定後の着任には時間がかかります。
また、実際に採用者がプロジェクトに着任しても、戦力となるまでには一定程度の時間がかかります。
担当業務を理解し、ドキュメントを読み込み、どういったシステムのどの箇所を担当しているのか把握して、他メンバーと遜色なくプロジェクトに参画できるようになるまでには、スキルや経験にもよりますが、1週間~3週間程度は見ておく必要があるでしょう。
つまり、単純にメンバーの増員と言っても、簡単には行えないので、あらかじめプロジェクトのどの部分でメンバーの補強が必要なのかを明確にしておき、そこから逆算してスケジュール調整を行っていくことが大切です。
5.想定される時間のロスを考慮しておく
天候、休日、休暇、病欠、通院、その他の個人的理由による非稼働の時間を考慮しておくのが良いでしょう。
そういった場合に備えて、あらかじめ無理がきくメンバーをリストアップしておき、事前に同意を取り付けておくことも、有効な手段です。
6.スキル不足のメンバーには学習時間を割り当てる
外部研修から戻ってきたメンバーであれば、翌日からプロジェクトの戦力として使えるものと考える向きもありますが、そう上手くはいかないケースも多いので注意が必要です。
特に新人等の年次が浅い段階においては、成果を発揮する段階に至るまでには一定期間かかるものと考えておき、必要に応じて学習にあててもらう時間も取っておくことが無難です。
あまり期待しすぎて的外れとなった場合は、他のメンバーにしわ寄せがいくことになるので、過度な期待は避けた方が良いでしょう。
まとめ
クリティカルパスだけに限らずプロジェクト全体を通しては、「負荷の平準化」を考慮することが求められます。
とかく、スター的なエースと呼ばれるメンバーに負荷が集中しがちになってしまうケースも往々にしてあり、特定のメンバーに負担が集中してしまうことになりかねません。
そうではなく、負荷の平準化を考えることで、問題点が浮き彫りになり、負荷の調整も可能となります。
各メンバーに均等に負荷をかけるためには、まずエースと呼ばれるメンバーの負荷の低減を考え、「本当にその作業にそれだけの高い知識と経験が必要なのか」という問いを立てることで解決につながることがあります。
そういった問いを立てずに、なんでもかんでもできる人に任せていては、他メンバーの成長の機会を奪ってしまうことにもなりかねないので、該当プロジェクトだけでなく、その後の会社の成長という点においても負荷の平準化は重要な考え方と言えます。