3回にわたって掲載してきた「今さら聞けない原価管理」シリーズもいよいよ最後となりました。
上級編では、損益分岐点に焦点をあてて、その考え方や計算方法などをご紹介していきたいと思います。
会社経営においては、利益を追求することも大きな目的の一つですが、そのためには費目ごとの収支や、会社の損益分岐点はどこなのかなどを把握しておくことが大切です。
利益を上げやすくするための一つの考え方として、損益分岐点を下げるためのポイントもご紹介していますので、参考にしていただければと思います。
※2018年2月1日更新
1.損益分岐点分析とは
損益分岐点分析(CVP分析とも言う)とは、文字通り、損益が分岐する点を知るためのものです。
※CVPのCはCost:原価、VはVolume:生産量、PはProfit:利益、を指します。
損益分岐点とは、利益が出るか損失が出るかの分岐点、つまり利益=0になる時の売上高のことを指します。
ビジネスを行っていく上では、事業の利益を出すことが大きな目標となりますが、そのための最初の通過点として、損益分岐点を越えて利益が出る段階を目指すのが通例でしょう。
そういった意味で、企業の損益分岐点を把握しておくのは大切なことであり、社内でも共有しておく必要のある数値と言えます。
損益分岐点分析を行うことで、企業全体や事業部別、商品別の売上・費用の目標設定に利用することができます。
また、一定のコスト構造の中で、売上がどのように変化していくと利益が出るのかといったことや、コスト構造が変化した時に、売上と費用がどのような状態にあれば、利益が出るのかといったこともわかるようになります。
この費用の中には原価が含まれるので、そういった意味で、入門編と中級編でお伝えした原価の仕組みや計算方法を頭に入れて、実際に原価管理をしておくことが大切です。
「今さら聞けない原価管理 プロが教える原価管理のコツ ~入門編~」
「今さら聞けない原価管理 プロが教える原価管理のコツ ~中級編~」
損益分岐点分析は、新規事業の立ち上げや新規商品投入の際には必要不可欠な分析であり、しっかりとした分析ができていないと、大幅な赤字になってしまう可能性もあります。
また、損益分岐点分析を行うことで、企業全体のコスト構造を明らかにすることが可能で、企業が持つリスクを洗い出すことにもつながるので、定期的に分析を行い、社内で共有しておくことが大切でしょう。
2.固定費と変動費、限界利益、限界利益率について
損益分岐点の具体的な計算方法に入る前に、さまざまな言葉が出てくるので、それぞれについて、見直しておきましょう。
まず原価のうち、固定費と変動費についてです。
固定費とは、事業の操業度の増減に関係なく、一定のコストがかかる費用のことです。
具体的には、人件費やオフィス賃料、水道光熱費、リース料、減価償却費などにかかる費用のことを指します。
続いて、変動費とは、事業の操業度の増減に比例して、コストが変化する費用のことです。
具体的には、仕入れにかかる費用、消耗品費、原材料費などにかかる費用のことを指します。
他にも、外注費や派遣社員等に支払う給与を、売上に合わせて調整している場合は、変動費としてカウントされます。
固定費と変動費の理解が進んだら、続いては“限界利益”という言葉に注目していきます。
限界利益とは、売上高から変動費だけを差し引いた利益のことです。
限界利益は売上が上昇した時に、最大限獲得できる利益のことを指し、企業の利益を考えていく上でも、重要な指標となる数値です。
限界利益 = 売上高-変動費
また、利益は売上から費用(変動費+固定費)を差し引いたものなので、限界利益を次のように表現することもできます。
限界利益 =利益+固定費
この2つの式からわかることは、限界利益を上げるためには、売上単価を上げる(同じ変動費で高く売る)か、固定費の削減が必要になってくるということです。
限界利益が上がれば上がるほど、売上高が増加した時の企業に与えるプラスの影響が大きくなります。
損失と利益の分岐を分析するための損益分岐点分析には、この限界利益が大きく関わってきます。
続いて、限界利益率について見ていきます。
限界利益率とは、売上に対する限界利益の割合を表すもので、利益の増える割合を示す数値となります。
限界利益率は、以下の式で算出します。
限界利益率 =限界利益(固定費+利益)÷売上高
以下の簡単な例で、限界利益率の具体的な考え方をご紹介します。
項目 | 金額 |
---|---|
売上高 | 1,000円 |
変動費 | 800円 |
固定費 | 100円 |
利益 | 100円 |
先ほどの限界利益率を算出するための計算式を思い出してみると、限界利益は固定費+利益なので、100+100=200円ということになります。
つまり、上記の例の限界利益率は、200÷1000=0.2(%)です。
では、売上高が2000円になった場合を見てみます。
項目 | 金額 |
---|---|
売上高 | 2,000円 |
変動費 | 1600円 |
固定費 | 100円 |
利益 | 300円 |
売上高が2倍になると変動費も2倍になるので、1600円に上がります。
一方で、固定費は変動しないので100円のままです。
つまり、売上高が2000円に増えた場合の利益は100円から300円に200円分上昇するので、売上高1000円増に対する限界利益率0.2%は正しいという考え方ができます。
限界利益率を高めることで、利益を上げる可能性が高まるということを頭に入れておくことが大切でしょう。
※参考 限界利益率を求めるためのより詳細な計算式
限界利益率 = 限界利益÷売上高 = (売上高-変動費)÷売上高 = 1-(変動費÷売上高) = 1- 変動費率
3.利益率を上げるには固定費の削減が重要
赤字を防いだり、さらなる利益率のアップを目指したりする際には、コストダウンが必要です。
その際に、変動費と固定費のどちらを削減するのがベターなのか、注目してみましょう。
変動費に関しては、仕入業者への値引き交渉や仕入先変更などで削減できる可能性があるので、取り組みやすいと言えます。
しかし、売上が減っている場合、売上とともに減少しているはずのコストを減らしても効果は薄いでしょう。
値引き交渉の際に仕入業者から、仕入量を増やすことを条件にされる可能性も否めません。
固定費についてはどうでしょうか。
固定費は、場合によっては組織体系の変更やリストラなどが必要となる可能性もあり、削減するのが大変な費用です。
しかし、固定費削減後に売上が回復、または上昇した時に、削減した固定費のままで業務に支障がなければ、利益率の大幅なアップにつながります。
そういった意味で大変ではありますが、まず取り組むべきは固定費の削減であり、見直していくべき費用と言うことができます。
4.損益分岐点を下げるための3つの方法
損益分岐点を算出するには上部でご紹介した限界利益率を用いて、以下の式で計算します。
損益分岐点(売上高) = 固定費÷限界利益率 = 固定費÷(1-変動比率)
損益分岐点を下げるためには、以下の3つの方法があります。
- 固定費を下げる
- 変動費率を下げる
- 売上単価を上げる
まず、固定費を下げるためには、人件費の削減が大きなポイントとなります。
そのためには労働効率を向上させて、生産性を意識して働くことが大切です。
1人でできるところを複数人で行っているような作業がないかなど、過剰な労働力確保は経営においてはマイナスとなります。
また、過剰設備の処分等も重要なポイントとなります。
特に工場での生産系業務においては、設備の稼働率も経営改善の一つの指標となるでしょう。
設備は100%稼動させれば良いというものでもありませんが、なるべく高い稼働率を維持することで、設備の無駄を削減することも大切な要素です。
続いて、変動費率を下げるためには、原材料費の削減や流通経路の見直しなどが必要となります。
これらは、取引先との兼ね合いもあるため、一筋縄ではいかないこともあります。
交渉次第で双方にメリットがある形で妥結することができれば、変動比率の削減も実現可能です。
最後に売上単価を上げるという点については、簡単に言ってしまえば商品の値上げを行うということです。
消費者視点で考えれば、なるべく避けたい施策ではありますが、やむを得ない状況もあるので、そういった場合の手段として値上げすることはあり得るでしょう。
値上げする場合、当然ながら価格競争力は低下するリスクがあるので、商品の付加価値アップやサービス向上等の対策が求められます。
消費者は「安くて良いもの」を求める傾向が強いので、価格アップには冷静かつ客観的な分析が必要です。
まとめ
企業で費やされるコストを削減するのは重要なことですが、適切な数値やデータをもとに削減を図らないと、反対に売上や利益がマイナスになってしまう可能性もあります。
そういった意味でも、今回ご紹介した損益分岐点の考え方や計算方法などは頭に入れておく必要があるでしょう。
損益分岐点の考え方が頭に入っている場合でも、その活用方法が上手くいかないと、コスト削減にはつながりません。
まずは固定費や変動費、直接費や間接費などの費目ごとに分け、どこに無駄があるのか、維持したほうが良いのはどの費目かなどといったことを話し合う場が必要でしょう。
すぐに成果が出るものではありませんので、少しずつ地道に取り組んでいくことで、会社経営は改善の方向に向かっていくと言えます。