今回は主に、工程管理の視点でPLMとPLMシステムについてご紹介していきます。
一つの製品の企画から納品、廃棄に至るまでの一連の流れをPLMと呼び、現代ビジネス社会において、ますますその効率化や最適化が求められています。
顧客はより良い製品をより廉価な価格で提供されることを常に求めており、品質と提供価格の問題はメーカーのみならず、ベンダーの永遠のテーマとも言えるでしょう。
そういった中で、製造過程におけるコスト削減を目指すための一つのヒントとしてPLMシステムの導入が挙げられます。
まずは、PLMの考え方を習得し、実際のシステム導入による効果を体感いただければと思います。
実際のPLMシステムの特徴やメリット、デメリットをご紹介していきますので、どうぞご覧下さい。
目次
PLMでコスト削減と業務効率化を実現
PLMとは「Product Life cycle Management」の頭文字を取ったものであり、日本語では「製品ライフサイクルマネジメント」と呼ばれています。
つまり、製品の企画段階から設計、調達、製造、販売、サポート、破棄に至るまでトータル的に管理するための手法です。
また、このような管理の実現を支援するためのシステムとして「PLMシステム」が存在します。
PLMの目的
顧客の製品に対する要件は年々多様化・複雑化の一途をたどり、各メーカーは魅力的な製品開発や価格競争の波を渡るための術を常に探っています。
その最も代表的なものが、「コスト削減」と「プロジェクト全体の業務効率化」です。
コスト削減によって、製品価格を下げることで競合との差別化を図り、顧客の満足度を向上させることを狙いとします。
さらに、プロジェクト全体の業務効率化が実現すれば、企業は経営戦略により一層注力することができるので、効果的なマーケティング手法を打ち出すことや、魅力的な製品開発を行うための時間を割くことができるようになります。
PLMは、上記のように、企業が現代ビジネス社会において生き残るための術を生み出す管理手法、またはその管理手法を提供するシステムと言えます。
PLMで実現すること
これまでは例えば、企画段階での製品設計情報(CADデータやCAEデータなど)を、プロジェクトを通して一貫して共有することができませんでした。
従来は、設計部門には設計部門のデータ、製造部門には製造部門のデータ、営業部門には営業部門のデータとそれぞれ部門ごとに異なったデータを保管していました。
これは一見すると、それぞれの部門に見合ったデータを所持することで業務を円滑に進めているように見えます。
しかし実際には、部門間のデータや連携の摩擦を生み、プロジェクト全体を通して見ると、業務を非効率にしてしまっていると言えます。
また、製造における部品を外注する際にも、外注先には違ったデータが必要となるので、さらなる業務の非効率化を招いてしまいます。
では、企画段階から製造、販売とプロジェクト完了に至るまでの全ての部門が共通のデータを取り扱うことができればどうなるでしょうか?
部門間に生じていた摩擦は緩和され、プロジェクト進行が迅速化するので、業務効率化のみならずコスト削減も期待できます。
このように、PLMを実行したりPLMシステムを導入したりすることで、企業の大きな課題である「コスト削減」と「プロジェクト全体の業務効率化」を実現することができるようになります。
従ってPLMは、企業が激化する価格競争を勝ち抜いて、カスタマー要件を満たすための欠かすことのできないソリューションであると言うことができます。
それでは、次のテーマから実際にPLMを提供する主なシステムについてご紹介していきます。
PLMを提供する国内の代表的な2つのソリューション
ここでは、国内の代表的なPLMシステムを2つ、ご紹介します。
それぞれの特徴やメリット・デメリットを紹介していきます。
Obbligato III/NEC
NECが提供するPLMシステムであるObbligato III最大の特徴は、そのカスタマイズ性にあります。
導入企業の機能要件に合わせて最適なシステムを構築し、かつ短期間での導入を目指します。
稼働までの期間を短縮することで人件費の削減に繋がり、導入段階からコスト削減を実現できるでしょう。
また、Obbligato IIIはSaaS(クラウド)型でも提供されているので、情報システム担当者がいない中小企業でも導入することができます。
メリット
メリットはやはり柔軟なカスタマイズ性であり、Obbligato IIIの導入事例にはオムロンや三菱重工、キリンビールといったグローバルな事業を展開している企業が顔を揃えています。
業界が多種多様であることからも、Obbligato IIIがカスタマイズ性に優れているということが見て取れます。
デメリット
デメリットとしては、トータル的なソリューションを提供していることに起因するコスト高が挙げられます。
廉価で導入できるSaaS型でも初期費用が20万円~、月額利用料が20万円~、とある程度のコストがかかるので、中小企業では導入をためらってしまうケースもあります。
しかし、導入することで改善できることは多いので、表面上の料金よりも費用対効果を算出して、導入効果を検討してから結論を出すことが大切でしょう。
PreSight/図研
図研は日本を代表するCAD/CAEシステムベンダーで、包括的なPLMシステムであるPreSightを提供しています。
PreSightの特徴は設計段階からのBOM(Bill of Materials=部品構成表)であり、早期段階でコストシミュレーションが行えることによって投資コストの視覚化が可能です。
また、XVLと呼ばれるテクノロジーの導入でCAD/CAEデータを1/100まで軽量化できるので、ファイルサーバの圧迫も避けることができます。
メリット
早期段階でのコストシミュレーションによる投資コストの視覚化は、無駄な投資の削減につながるので、一つの製品を適正なコストで製造することが可能となります。
製品製造においては、コストの過不足が問題になることも多いので、従来の課題を直接的に解消できるでしょう。
デメリット
デメリットとしてはNECのObbligato III同様に価格がネックになるでしょう。
小規模向けソリューションでも導入価格は1,500万円~なので、導入には資金力が必要です。
しかし、導入による効果は確実なので、こちらも費用対効果をしっかりと算出して意思決定をすることが大切です。
PLMシステムの導入に失敗しないための4つのポイント
本段落では、PLMシステムの導入に際して、失敗しないための4つのポイントをまとめましたのでご覧下さい。
1.各部門を巻き込む
PLMシステムは全社的に導入するシステムであり、エンドユーザーは情報システムや設計部門だけではありません。
各部門がそれぞれの目的で利用するシステムなので、全てのエンドユーザーにとって使いやすいシステムでなければ意味がありません。
そこで重要なのが、導入検討段階から各部門責任者を巻き込むことです。
当然、各部門によってシステムに求める要件が違うので、全ての要件を洗い出して、総合的に使いやすいシステムを選定することが重要になります。
決して、経営層や情報システム部門のワンマン導入にならないように注意しましょう。
2.プロジェクト全体を把握して余裕を持って導入する
PLMシステムは非常に高価なシステムであり、またリプレイスが難しいシステムでもあります。
従って、導入に失敗は許されないと言えます。
そこで、まずはPLMシステム導入までのプロジェクト全体をしっかりと把握しましょう。
システムの選定方法、導入までの流れなどの全体を把握することで、適切な投資が可能になります。
適切な投資ができず、過不足があると、最終的に自社の要件を満たしていないシステムや、オーバースペックなシステム導入をしてしまう可能性があります。
プロジェクトの全体像を把握し、期間に余裕を持って導入を進めていきましょう。
3.企業の管理体制を整える
PLMシステムは、導入すれば必ずコスト削減や業務効率化を生み出し、企業に利益をもたらす打ち出の小槌のようなシステムではありません。
あくまで、PLMという管理手法を支援するためのツールです。
つまり、ただ導入しただけではPLMシステムの効果を最大限に引き出すことはできません。
PLM導入によって適切な効果を得るには、導入に伴い、企業の管理体制を整える必要があります。
従来の管理体制を捨て、PLMシステムに合わせた体制を築くことができなければ導入に失敗する確率が上がってしまいます。
4.各部門にキーマンを配置する
どんなシステムであっても、導入後のトラブルは避けられません。
そこで、導入成功の鍵を握るのは、各部門で発生するトラブルへの迅速な対処です。
特に、使用方法に関するトラブルが多いですが、その度に情報システムが駆り出されていては、IT戦略への注力が疎かになり、結果的に企業成長は停滞してしまいます。
従って、各部門にPLMシステムの使用方法などを教育されたキーマンを配置することがポイントです。
その場でトラブルに対応出来ることで、対処が迅速化し情報システムの業務効率化にも繋がります。
まとめ
PLMの考え方とPLMシステムの概要や代表的な2つのシステム、PLMシステム導入時のポイントについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
これから、ますます激化していくであろう顧客争奪戦を生き残るのは、PLMによってコスト削減や業務効率化を実現した企業であると言っても過言ではありません。
導入に際しての費用対効果を社内できちんと検討したうえで、導入の判断を下すという結論に至るのであれば、積極的に導入するべきでしょう。
これからの時代は何もしないことがリスクであり、どんどん新しい考え方や管理手法を取り入れて、時代のニーズに合った製品を生み出していく企業が勝ち残るでしょう。
そういった意味でも、まだPLMに取り組んでいない企業は、PLMの文化を社内に広めることから始めることをお勧めします。