ビジネスでは物事を分かりやすく説明することや、相手が納得のいくように自分の主張を通すための論理展開が重要です。
「なぜ、その結論を導き出せるのか」を分かりやすく説明する思考法に演繹法と帰納法があります。それぞれ結論を導き出すための思考の出発点は異なりますが、ロジカルシンキング(論理的思考力)の基本となるものです。
今回は、ロジカルシンキングの基本となる演繹的思考・帰納的思考について解説していきます。それぞれの特徴や違いを理解することで論理的思考力を高めましょう。
目次
演繹法とは
演繹法は三段論法ともいわれ、「2つの情報を関連付けて、そこから結論を必然的に導き出す思考法」です。
ここで、例を見てみましょう。
「メリットがデメリットを上回るときにプロジェクトを実施する」・・・ルール
「投資案件Aは投入する費用や資源を圧倒的に上回る収益となっている」・・・観察事項
→「投資案件Aを実行すべきだ」・・・導き出される結論
このように、演繹法は「ルール(または一般論)」と「観察事項」、そして(必然的に導き出される)「結論」からなっています。
すなわち、観察事項(=新しく知った情報)をルールや一般論(=すでに知っている情報)に照らし合わせて、その観察事項がルールに合っているかどうかで結論を出すというもので、自然な思考方法です。
一般論や観察事項という仮定が正しければ、結論も正しくなければならないということが特徴で、論理学の分野ともいわれます。
また、演繹的な論理展開は包含関係を用いると、分かりやすい場合が多いです。
例)
「猫は動物である」
「私が飼っているタマは猫である」
→「タマは動物である」
タマは猫であるから、動物というより大きなカテゴリーに含まれており、必然的に動物だということができます。
「人間はいつか死ぬ」→「ソクラテスは人間である」→「ソクラテスはいつか死ぬ」という有名な三段論法も同様に考えられます。
帰納法とは
帰納法は、演繹法とは流れが反対の思考法です。
つまり、ルールと観察事項から結論を導くのではなく、観察されるいくつかの事象の共通点に注目して、ルールまたは無理なくいえそうな結論を導き出すものです。
演繹法と違い、自動的に結論が導き出されることはなく、結論を導くための想像力が求められます。
帰納法の例を、以下に挙げます。
「東京都民の平均年収は高い」・・・観察事項1
「神奈川県民の平均年収は高い」・・・観察事項2
「大阪府民の平均年収は高い」・・・観察事項3
→「大都市圏の住民の平均年収は高い」・・・ルール(一般論)
注意点としては、導き出される結論が1つとは限らないことです。
上の例では、結論が「大企業が集まっている地域の住民の平均年収は高い」となるかもしれません。
東京・神奈川・大阪という3つの地域の共通点として、何を想定するかによって大きな差が生まれます。
ビジネスや経済について何も知らない小学生であれば、「面積の小さい都道府県民の平均年収は高い」というような、一般論にはならない的外れな結論を出すかもしれません。
先ほど述べたように、三段論法で必然的に結論が出てくる演繹法とは異なり、帰納法で有用な結論を出すにはある程度の知識が必要です。
その知識をもとに「これはこうなる確率がきわめて高い」という予測を立てる要素があり、統計学の分野のような側面もあります。
演繹的思考と帰納的思考の関係性
帰納的思考によって生まれた一般論やルールが、演繹法で不可欠な「すでにある知識」となり、また別の事象を観察してルールに当てはまれば、そのルールは信頼できるものになるというように、演繹法と帰納法は密接にかかわっています。
両者の合わさった例を見てみましょう。
「リーフ(日産の電気自動車)の販売が好調だ」・・観察事項1
「野菜などで旬の食材を買う人が増えている」・・・観察事項2
「事務機器ではリサイクルタイプの比重が急激に増えている」・・観察事項3
→「消費者は環境に配慮した製品を求めている」・・結論=ルール(帰納法)
「消費者は環境に配慮した製品を求めている」・・・ルール
「自社(電器会社)が競合に先駆けて市場導入した大型洗濯機は省エネ・節水だ」・・観察事項
→「自社の新製品の洗濯機は多くの消費者に売れるだろう」・・・結論(演繹法)
ここでは、製品以外で売れ行きに影響を与える要因(流通、広告など)は、話を単純にするために無視しています。
そうすると、もしこの新型洗濯機が売れたら「消費者は環境に配慮した製品を求めている」というルールの信頼性が高まります。
反対に、もしこの洗濯機が売れなければ、ルールそのものに対する疑問が生まれます。
観察をやり直して他のルールを考える、またはひとまずそのルールを無視した広告や流通という要素を再考する必要があります。
例えば、調査によって消費者がこの洗濯機の価格を高すぎると判断しているなら、ここでのルールは「消費者は環境に配慮した費用対効果の高い製品を求めている」となるかもしれません。
環境に配慮した製品が売れている理由は、環境に良いものよりも、CMなどでよく目にしていたためかもしれません。
もしくは、論理展開の中で間違った情報が混ざっている場合はどうでしょうか。
観察事項で実際には旬の食材の売り上げが落ちている場合には、ルールや一般論の説得力が弱くなってしまいます。
このように、演繹法と帰納法によって多くの発見や推測ができる一方で、その中に正しくない情報がある場合や間違った結論を導いてしまった時には、前提が崩れてしまうという落とし穴があります。
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演繹法の考え方
ここまで演繹法・帰納法とは何かについて解説してきました。
では実際に、演繹法的思考は具体的にどのように考えたら良いのでしょうか。それぞれのステップの持つ目的に沿って解説していきます。
どのステップで何を目的として考えるかを明確にすることでより上手に演繹法を活用できるようにしましょう。
最初に結論を考える
演繹法の論理は「ルール(一般論)→観察事項→結論」という三段構造で組まれます。
しかし、いきなり順序通りに論理を展開しようとすると、想定とは違う結論にたどり着いてしまうケースがあるでしょう。
それを防ぐためにも、演繹法を使って論理展開をしたいという場合には、あらかじめ導き出したい結論を考えておくのが効果的です。
先に結論を決めてから、結論に向かってプロセスを組み立てるイメージで「ルール(一般論)」と「観察事項」を決めます。
このように逆流するかたちで論理の組み立てを考えると、演繹法の論理展開をスムーズに行うことができます。
結論が出る理由・前提条件を考える
なぜその結論を導き出すべきなのか理由を考え、結論の背景にどのような「前提」があるのかを明確化しましょう。
人は物事を考える際に、生きている社会の価値観や文化などを前提として思考するものです。どこからその結論を探し出して来たのか、土台にはどんな前提があるのかを深堀りし、結論にたどり着くまでの思考過程を洗い出していきましょう。
前提を考えることで、結論が肉付けされたり、場合によってはより適切な結論へと修正できたりするでしょう。この作業は「ロジカルシンキング」と呼ばれる、一貫した論を組み立てていく作業にもつながります。
普遍的な事象を考える
結論へとつながる「ルール(一般論)」と「観察事項」には、必ず普遍的な事象をピックアップするようにします。
例をあげるなら「ルール(一般論)」は「犬は哺乳類である」とし、「観察事項」は「哺乳類には血液が流れている」とするなどです。この2つの要素が合わさって「犬には血液が流れている」という結論が導き出せます。
このようなレベルで、誰もが同意できる情報を選びましょう。もし疑う余地のある情報を選んでしまうと、導き出す結論の信憑性が揺らいでしまいます。「ルール(一般論)」も「観察事項」も、結論を根拠づけるための重要な項目のため、熟考しながら選ぶようにしましょう。
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演繹的思考の鍛え方
ここからは演繹的思考の具体的な鍛え方について解説していきます。実用的な演繹的思考力を身に付けるためには、ここから紹介する鍛え方を意識すると良いでしょう。
ビジネスシーンで演繹法を使う
演繹的思考を鍛えるためには、ビジネスシーンで積極的に活用していくのが良いでしょう。
ビジネスシーンには、演繹的思考力が求められる場面が多くあります。
特に、新しいアイデアを他者に提案するような企画業務では、演繹的な思考能力が必要です。相手にアイデアだけを伝えても、相手には本当に有効であるのかが分かりません。
理解を得るためには、一般的かつ普遍的な事実を前提に挙げながら提案することで、アイデアが有効であることを示す必要があります。アイデアの有効性を補強するための事象を探すこの作業は、演繹法の組み立て方と一致するため演繹的思考を鍛えるには最適でしょう。
アイデアの提案以外にも、普段の上司への報告の場にも演繹法を使うことができます。上司への報告の際は要点を絞り、できるだけ簡潔に物事を伝える必要があります。演繹法を活用すると、前提から結論までの要素をシンプルに体系立てて伝えることが可能になります。
このように、日々の仕事の中には、演繹法を活かせるシーンがたくさんあります。日頃から意識することで、演繹的思考力を磨いていきましょう。
日常生活の中で演繹法を使う
演繹的思考力を鍛えるためには、ビジネスシーンだけでなく日常生活の中でも演繹法を意識するのが効果的です。何気ない日常生活の中にも、演繹法を活用できる場面は潜んでいます。
たとえば家族や友人、恋人などとあるテーマについて議論をする場面で、相手のロジックに違和感を覚えたとします。それは、なぜかを考えましょう。自分や相手が前提としている価値観などの条件が普遍的でない可能性があります。
誰かが導き出した結論に違和感があるときは、背景にある価値観を深堀りしてみましょう。深掘りを行うことによって結論と前提条件の結び付きについて考えるきっかけになり、演繹的思考を鍛えることにつながります。
他者との会話だけでなく、SNSやニュース番組の中でも、ロジックのもろさに気づくケースがあるかもしれません。日常生活で触れる情報に対して「それはロジックが通っているか」「なぜ違和感があるのか」を考えることで、演繹的思考が鍛えられるでしょう。
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演繹的思考の際の注意点
高い技術と能力が要求される演繹的思考にはいくつかの落とし穴が存在します。ここから紹介する注意点を日常的にに意識することで、演繹的思考力を高めましょう。
論理が飛躍してしまう
情報が間違っていた、観察結果から導いた結論が適切でなかった以外にも注意すべき点として「論理の飛躍」などが挙げられます。
演繹法は細かく展開すると冗長になってしまうため、省略が不可欠ではありますが、省略しすぎてしまうと論理の飛躍が生じます。
例えば、以下の例はどうでしょうか。
「日本人は豚肉を好む人の方が多い」
「豚肉に多く含まれるコラーゲンには老化防止効果がある」
「日本の牛肉産業は将来衰退するだろう」・・論理の飛躍(演繹法)
仮に最初の2つの前提が正しくても、そこから導き出される結論は「日本人は豚肉を好む」という程度で途中が省略されており、例の結論とは大きな隔たりがあります。
観察事項を加えて、「豚肉の需要が大きく伸びる可能性がある」、「肉の消費量自体は大きく変わらない」→「牛肉に対する国内需要は減るだろう」として、さらに「国産牛肉は高価で国内以外に需要はない」、「牛肉に対する国内需要は減るだろう」→「日本の牛肉産業は将来衰退するだろう」と説明すれば筋が通った話になります。
しかし、「肉の消費量自体は大きく変わらない」、「国産牛肉は高価で国内以外に需要はない」といった前提について検討の余地があります。
論理が飛躍している部分を検証していくと、この例のように客観的に必ずしも正しいとは言い難く、説得力のない論理が見つかることもあります。
話を聞いていて疑問を抱いた時や、自分の論理が飛躍してないか確かめるには、論理展開を「なぜそうなるのか」と尋ねるつもりで解明していくと、このような問題は解決できます。
バイアス(先入観)がかかってしまう
上記で説明したように、人間の思考には無意識のうちにバイアスがかかってしまい、論理が破綻してしまう恐れがあります。
防止策としては、ロジカルシンキングにおける主な失敗例をあらかじめ認識しておくことが挙げられます。以下でご紹介する失敗例を認識してから取り組むことで、バイアスがかからないように注意していきましょう。
利用可能性ヒューリスティックス
「利用可能性ヒューリスティックス」とは、不確実なことについて予測する際に、簡単に頭に浮かぶ情報を優先して判断してしまうことです。
たとえば、あることが起こる頻度や確率を判断しなければならないときに、人は自分にとって身近なことや、ニュースでよく目にしていることだと「高い確率で起こる」と判断しがちです。
しかし、実際には情報としてよく目にするだけで、実際にはそこまで頻度が高くないということがあり得るため留意しておきましょう。
代表性ヒューリスティックス
「代表性ヒューリスティックス」とは、不確実なことについて予測する際に、全体におけるたった一部分を材料に、全体の特性を判断してしまうことです。
ある有名な人物の言動や、ある物事の印象的な話を、そのまま、人物・物事が所属するグループの全体の特徴として昇華させてしまいます。たった一部を見ただけでは全体の傾向をつかむことができずに、誤った判断を下すことにつながります。
アンカリングと調整ヒューリスティックス
「アンカリングと調整ヒューリスティックス」とは、不確実なことについて予測する際に、最初に見た数字や条件にとらわれて思考を調整し、判断を下してしまうことです。
アンカリングの言葉の元になっている「アンカー」には、錨という意味があります。最初に見た数字や条件が、鎖のように思考を固定してしまうことで、無意識にその数字や条件に注目して結論を出してしまいます。結果として、最終的な予測値にバイアスがかかってしまう恐れがあります。
演繹法と帰納法の使い分け
演繹法と帰納法はそれぞれ場面によって使い分けることで最大限の効果を発揮します。それぞれの思考法ごとの最適な場面を知ることで、提案や課題解決などビジネスで活かせるようにしましょう。
演繹法を使用する場面
ビジネスにおいて演繹法が使用されるシーンといえば、どのようなものが考えられるでしょうか。
代表的な場面のひとつは、顧客の課題に対して解決策を示す場面です。解決策の提案は「現状」を踏まえながら、顧客の「理想」へとプロセスを立てて解決策を探していく作業です。課題解決の作業において、自然に演繹的思考を行うことになるでしょう。
他には企画立案も、演繹的思考を使用する代表的なビジネスシーンの1つでしょう。新しい商品・サービスを提案する際は一般的に、世の中の事象や、土台となる知識を示すことで、その企画が世の中に受け入れられることを主張していきます。
企画の成功という結論に向かって、材料となる事象を探すという演繹的な思考ルートが多くの場面で求められます。
帰納法を使用する場面
帰納法は主にデータ分析において活用されます。そのため、マーケティング関連の現場では、帰納的思考が頻繫に登場するでしょう。データを根拠になにかを提案するという場合には、帰納法の思考ルートをたどってプレゼンテーションを進めていくことが有効的です。
この際に注意したいのはデータの正確さです。帰納法では、普遍的な事象が前提にあるかどうかは関係なく、代わりに「事実=データ」があることが求められます。もしデータに不備があったり、件数が少なかったりする場合、そのデータは事実を示してはくれません。偏りのない事実を示すためには、一定以上の質・量のデータが必要です。もし不十分なデータをもとに提案を考えた場合、先方の納得は得られないでしょう。
根拠としているデータが信頼に足るものなのかチェックした上で、帰納法の考え方を実践していきましょう。
まとめ
ロジカルシンキングの基礎となる演繹法と帰納法は何気なく使っているものですが、改めて問い直すと論理的に物事を伝える際に重要なことが分かります。
しかし、使い方を誤ると間違った結論を導いてしまう可能性があるため注意が必要です。
無意識にやってしまいがちで、避けなければならない落とし穴に「軽率な一般化」があります。また、主張を強める情報のみに目が向いてしまうことにも注意しなければなりません。
こういった問題を解消するために、言葉の定義や推論のもととなっている仮定などの「自分の認識が正しいか、他の人と共通の認識を取った上で結論を出しているか」ということを、論理的に考える上で大切にしていきましょう。