5月の中頃から暑い日が増えてきました。
それとともに、アイスクリームの売上は伸びていることでしょう。
この二文は読んでいて、すんなりと受け入れられると思います。
因果関係とは、原「因」と結「果」から、ある事柄がどうして起こったのかということを示したものです。
先ほどの文章だと「気温の高い日が多くなった」という原因により、「冷たいアイスクリームの需要が伸びて売上が増えた」という事象が起きたと考えられます。
この因果関係の把握は、物事を論理的に考えるロジカルシンキングにおいてはもちろんのこと、何かしらの問題に対する原因を分析して解決するためにも重要です。
例えば、アイスクリーム店はアイスの売上が減少した場合には、売上を回復させるために、まず何が原因で売れなくなってしまったのかを考える必要があります。
その後、問題の原因を取り除くか、何か新しい要因を作りだして、別の結果を導くというステップを踏みます。
すなわち、アイスが売れない原因(価格が高い、味が良くないetc)が何かを突きとめて、それからどのようなアクションを取れば良いのかを考えます。
このことは当たり前のように感じるかもしれませんが、実行するのはなかなか難しいことですし、ビジネスにおいては特に大変なことと言えます。
たいていの場合は、原因をよく考える前になんとなく解決策を決めてしまうからです。
まずは、「なぜ、こういう現象が起こっているのか、その原因は何か」という問いかけを、常に行う姿勢を身につけることが大切です。
因果関係を考えるには一度振り返ろう!3分別とチェック項目
因果関係には大きく分けると、次の3パターンがあります。
1.単純な因果関係
ある一つの原因が先にあって、そこから結果が生まれる因果関係です。
例えば、「雨が降ったから地面が濡れた」という一文では、「雨が降った」ことによって「地面が濡れた」という現象が発生しています。
2.にわとりとたまごの因果関係
ある原因から発生した結果が、さらに元の原因を引き起こして相互に原因、結果となっている因果関係を指します。
売上高と広告支出で考えると、「売上高が増えることで、広告に充てられる予算が増えるから広告支出が増える」とも言えますし、「広告支出が増えると、より多くの人がアクセスしやすくなるので、広告の効果によって売上が増加する」とも言うことができます。
この例では、企画経営上好ましい好循環となっていますが、反対にどんどん悪い方向へ進んでしまう悪循環も生じることがあるので、注意が必要です。
3.複雑な因果関係
1,2のパターンが複雑に入り組んだ因果関係を指します。
世の中で起こることは、1つだけ切り取ると単純な因果関係、あるいはにわとりとたまごの関係と言えるかもしれませんが、視野を広げると様々な事象が複雑に絡み合っていることが、往々にしてあります。
複雑な因果関係を見つけるには、以下の3つのことに注意しましょう。
1.時間的順序が正しいこと
時間軸上において、まず原因があり、その後に結果があるということです。
例えば、「交通事故を注意する看板がある道路で事故の件数が多い」という場合、看板があることで事故の件数が増えているわけではないでしょう。
この場合は、「事故が多発している」→「注意のための看板が置かれる」という時間軸が考えられます。
2.「相関関係が存在すること」
相関関係とは、一方が変われば他方も変わるというような関係を指します。
例えば、「小売店のリベート(代金の割戻し)を切り下げた途端、店頭での売上シェアが下がり始めた」という出来事を考えてみましょう。
リベートに応じて店頭での売上シェアも変わるという関係であるため、両者は相関関係があるといえます。
しかし、売上シェアが変化したからと言ってリベートが変化するとは言えないので、この場合、相関関係だけでは原因→結果の因果関係が成立するとは限りません。
3.第3因子が存在しないこと
「第3因子」とは、異なる2つの事象の原因となっている要素のことです。
同じ1つの因子が異なる2つの事象の原因となっているため、その2つの事象に相関関係が生じてしまいます。
相関関係があるために、因果関係があるかのような錯覚を与えてしまいますが、実際には以下の例のように、因果関係がないことが多いです。
「わが社のゲームセンターのうち、売上の良い店の近所にはたいていファストフード店が沢山ある。反対に、売上の悪い店の周りにはファストフード店が少ないケースが多い。つまり、ファストフード店に来た人がゲームをするのだろう。」
ここでは、このゲームセンターの店舗ごとの売上と、近くのファストフード店の数に相関関係があるのではないかという仮説を立てていますが、おそらく相関関係は弱いでしょう。
「立地が良い」という共通の原因、第3因子によって相関関係が生じているのです。
つまり、「立地が良いからゲームセンターに多くの人が来る」ということと、「立地が良いからファストフード店が沢山あるという」という事象が重なっているのです。
とは言っても、原因を分析するときに第3因子が存在しないことを示すのは大変です。
一般的に、存在することを証明することよりも、存在しないことを証明することの方がはるかに難しいと言われます。
幽霊の存在はその最たる例です。
事件捜査のアリバイでも、そこにいなかったことを直接証明するのではなく、他の場所にいたことによって、その場所にいなかったと間接的に証明します。
原因分析は仮説検証とトライアンドエラー
科学(特に自然科学)の世界では2つの事象(原因をA、結果をBとします)の間に因果関係があるという時に、次の3点がクリアできているかを確認します。
- Bが起きた全てのケースにおいてAが存在する
- Aが存在しないときにBが存在しない
- 他の条件は同じ
しかし、ビジネスの場面では検証のための実験を行いにくいという制約のため、このやり方で因果関係の有無を特定するのは難しいです。
実験できる環境や過去のデータがないだけでなく、分析を繰り返すことの時間的、金銭的コストが大きいこと、昨日まで正しかった因果関係が明日以降も正しいという保証がないこともその要因となります。
この状況のひとつの解決策は、8割方正しいと思えるまで推量、類推をすることです。
多少乱暴なやり方かもしれませんが、ビジネスにおいて全てに通ずる普遍的な真理は存在しません。
より多くの人間が、「確かにそうだろう」と思えるところまで説明できれば十分でしょう。
当然ながら、誤った推量・類推をしてしまうこともあります。
正しいと思っていた知識が、実は誤りの場合や推量の根拠とした過去の事例から状況が変化しているなど、原因はいくつも考えられます。
推量と類推の精度を上げるコツは、知識や経験を最大限に生かしつつも、あまりそれにとらわれすぎないようにすることです。
最終的な結論を出す前に、「本当にこれで大丈夫か!?」と客観的な視点で一度見直してみると良いでしょう。
知識や経験が陳腐化していたら、修正を加えるといったことを繰り返していくと、正確で幅広い知識が蓄積されて、より適切な判断を下せるようになっていきます。
Whyを何度も深掘る「なぜなぜ分析」
適切に因果関係を考えることが難しいとしても、ビジネスで問題解決をしようと思えば、「その原因はこれだ」と言い切れるものを見つける必要があります。
効果的な方法としては、原因をさらに問い続けることがあります。
原因の追究では、一つ原因が出たらそこで満足せずにさらに原因を探ります。
この手法の一つが「トヨタ生産方式」で取り上げられる、5回「なぜ?」を繰り返す「なぜなぜ分析」です。
例えば、生産材メーカーで「売上が伸びないから営業を強化しよう」としても、具体的な解決策が見えてこないでしょう。
1回の「なぜ?」で大元の原因を特定できるのは稀であり、真の原因を見つけるには少なくとも5回の「なぜ?」が必要という考え方です。
- なぜ売上が伸びないのか?(1回目)
→営業が振るわないからだ。 - なぜ営業が振るわないのか?(2回目)
→商品が顧客ニーズに合っていないからだ。 - なぜ商品が顧客ニーズに合致しないのか?(3回目)
→営業が顧客ニーズを正しく聞き出せてないからだ。 - なぜ営業が顧客ニーズを正しく聞き出せていなかったのか?(4回目)
→正しい担当者を訪問できていないからだ。 - なぜ正しい担当者を訪問できていないのか?(5回目)
→顧客の意思決定の権限を持つ部署が変わっていたからだ。
「顧客の意思決定権限に関わる部署が変わっていたからだ」が真の原因と分かれば、「顧客の最新意思決定部署者を正しく把握した上で、正しい担当者にアピールできるような営業を行う」という具体的な解決策を出すことができます。
心に留めておくべきは、本質的な問題を発見できないと、本質的な解決策が出てこないということです。
付け焼刃の解決策は応急処置のようなもので、見当違いな解決策にもなりかねません。
「なぜ?」を繰り返すことで、本質を見落とさないようにすることが大切です。
まとめ
問題の追究方法には、もう一つ「具体的に分解して考える」ことがあります。
例えば、「当社の利益率が落ちた原因は何か?」と考えて、たまたま思いついた「人件費が高過ぎる」という仮説を立てて、人件費の切り下げを行っても根本的な解決には繋がりにくいでしょう。
「利益は、売上-コストであり、売上は単価×個数となり、平均単価が落ちている原因は何か?」という切り口で考えてみると、原因が見つけやすいでしょう。
このように、何らかの出来事に対して、要因やそれから起こる結果を考える際には、出来事の関係性やそれ以外の要因となる錯覚(スキーマ)に気をつけながら、状況や根本の問題を把握することを心がけ、目標の達成に向けて気を引き締めて臨みましょう。