人に何か物事を伝える際に大事なのは内容でしょうか、話し方でしょうか、身振り手振りでしょうか。
すべて大事であることは間違いありませんが、他者に伝えるために、準備に最も手間がかかるのは、内容と言えるでしょう。
ビジネスにおいて調査した結果をまとめて、それをプレゼンにまとめることや、自分の主張として提案、指示、依頼などの形で他者(上司、部下、取引先等)に伝える場合を考えてみましょう。
せっかく調べた内容が良くても、まとめ方や伝える枠組みが適切でないと、相手はあなたが伝えたいことを理解できないかもしれません。
時間をかけて多くのことを分析したために、伝えたいことがまとまらず、かえってわかりにくくなってしまう可能性もあります。
コミュニケーションは自分と相手の双方向で行われるものですので、大切なのは相手にしっかりと伝わっているか、理解されているかということです。
自分が「伝えた」でなく、相手に「分かってもらえた」ことがポイントです。
演繹法と帰納法、因果関係などロジカルシンキングの手法を用いながら、論理展開をピラミッド型に構造化できるにようにしましょう。
目次
伝わりやすい文章に必要なのはピラミッドストラクチャーによる「構造化」
まずは例として、2つの同じ内容の文を見てみましょう。
1.ピラミッドストラクチャー(三角形の構造)のある文書例
A事業から撤退するかどうかについて調査を行ったので、ご報告します。
結論から言うと、A事業によってわが社が市場地位を向上させキャッシュを生み出すのは難しく、早期撤退が最善にして唯一の選択肢と思われます。
一刻も早く決断されることを期待しています。
極めて見通しの暗い市場です。
- 現在、既に○○億円程度の規模に縮小
- 今後、年間10%程度のマイナス成長の見込み
競合が強く、低い収益性に甘んじなくてはならない。
上位2社が圧倒的なシェアを占め、わが社との間での埋めがたいコスト差がある。
- ユニット当たり10%の調達コスト差
- ユニット当たり15%の生産コスト差
- ユニット当たり5%の物流コスト差
差別化が難しく、プレミアム価格を実現することはほとんど不可能。
以下のわが社の強みが生かせない。
一般消費者向けに培ったわが社の資産が活用できない。
- ブランドイメージ
- 小売チャネル
- マーケティングのノウハウ
これを読むことで、「A事業から撤退すべき」と主張する根拠を把握できると思います。
思考の流れが明確なので、同意しないとしても反論、調査の命令などスムーズに次のアクションに移ることができるでしょう。
2.ピラミッドストラクチャー(三角形の構造)のない文書例
A事業から撤退するかどうかについて調査を行ったので、ご報告します。
- 現在すでに○○億円ほどの規模に縮小
- 今後、年間10%ほどのマイナス成長の見込み
- 我々の強みである小売チャネルへの影響力が機能しない
- 上位2社の圧倒的シェア
- 上位2社との間にユニット当たり5%の物流コスト差
- わが社の大手法人顧客に対するマーケティングノウハウは貧弱
- 顧客は大手法人顧客がメインで、厳しいディスカウントやアフターサービスを要求
- 差別化が難しく、品質や希少性により価格を上乗せすることもほとんど不可能
- 大手法人顧客には、我々のブランドイメージが訴求せず
以上より、A事業から撤退すべきと考えます。
こちらの例では箇条書きで事実は押さえていますが、論点が見えにくく、なぜこの結論に達したのかについてもわかりにくいです。
一般的に、箇条書きは要素が5、6個を超えると、そのままではつながりが見えず、理解しにくいものとなります。
要素のグルーピングをすることや、そのグループごとのまとめをつけるなど、構造化する必要が出てきます。
このような上位のメインメッセージ(最も伝えたいこと)から見出し、その根拠となる情報というように構造化されたものをピラミッドストラクチャーと言います。
これは事象を構造化して、因果関係などから問題を突き止めるロジックツリーとは異なり、自分の考えをわかりやすくするためのコミュニケーション手段となります。
アイデアを構造化する4ステップ:問題発見とロジックツリーによるスキーム設定
論理をピラミッドストラクチャーの形で表現してわかりやすく伝えるためには、大まかに分類すると、2段落にわたって述べる4つのステップを意識することが大切です。
ステップ1:イシューを特定する
イシュー(論点)の特定は、「自分が今考えて論じるべきことは何か」、「受け手の関心は何か」ということをよく考えて、考えや論じる目的を抑えることを指します。
このイシューが見当はずれなものだと、以降のステップで論理を組み立てても意味がなくなってしまうため、とても重要な考え方です。
先ほどの事例ですと、「A事業から撤退すべきか?」がイシューであって、メインメッセージは「撤退すべきだ」か「撤退すべきでない」というものになります。
例えば、社長から報告書を作ったBさんへの依頼が、「わが社が攻めるべき今後の有望市場を探してほしい」というものであるのに、「A事業から撤退すべきか?」をイシューだと勘違いして結論を出すと、受け手の要求には答えていないことになってしまいます。
そういった意味でも、まずはイシューを特定することが大切です。
ステップ2:情報をグルーピングする
次は、相手にとっての理解と納得につながる論理の枠組みを考えます。
「論理の枠組み」とは、「イシューに答えるために押さえるべきポイント」です。
つまり、「○○というイシューに関してはA、B、Cを考えれば良い」と言ってみて、納得感があることが大切です。
この部分が十分に吟味されていないと、受け手の頭の中には、「上がっている根拠だけでは、結論は言い切れないのではないか」、「一つ一つの細かい論点はわかるが、そこから最終的な結論が出てくるのが唐突な気がする」というような疑念が浮かんで、説得力を欠いてしまいます。
そのために、漏れがなくダブりもない(MECEと呼ばれます)構造に分けて考える必要があります。
ロジックを考える際には、ロジックツリーという表やマトリクス、樹形図を用いた思考ツールも有効です。
事例では、イシューであるA事業からの撤退の是非を考えるために、事業環境を対象としたフレームワークである3C(Customer、Competitor、Company)分析を使っています。
報告書は3項目に分かれており、それぞれが市場(顧客)・競合他社・自社に対応しています。
この例では、最初から結論を導くための情報がある状況でしたが、現実には情報不足でメッセージが出てこないことも多いです。
その場合は、伝えようとするメッセージに関しての仮説に基づきながら、必要な情報を適切に集める作業を行うことが求められます。
ロジックを構造化しアウトプットまで:メッセージ作成とピラミッドの組み立て
ステップ3:「だから何?」を問いかけ、帰納・演繹に裏打ちされたメッセージを抽出する
グルーピングをした後は、それぞれの情報から解釈を引き出します。
その解釈を集めることで、さらに上位の解釈を引き出すという手順を重ねて、最終的な主張となるメインメッセージを作り上げます。
メッセージとは、得られた情報から考えられる解釈のことです。
そのため自動的に何かが導き出されるというわけではありませんが、イシューに関連することを抽出する必要があります。
例えば、「わが社の強み」などといった、内容がほとんどないような項目見出しはメッセージではありません。
「わが社の強みは○○だ」、「わが社の強みは△△で活かされている」というような、具体的な内容があるものがメッセージです。
このメッセージを考えるプロセスに、各人の思考が入り込む余地が生まれます。
事例ではステップ2で定義したフレームワークの「市場」、「競合」、「自社」に対して、それぞれの要素からメッセージを引き出して見出しとしています。
ステップ4:「なぜ?」「本当か?」を問いかけて論理のつながりをチェック
メインメッセージ・意見が生まれたら、再度全体を見渡し、受け手の立場に立って自分の論理構造をチェックしてみましょう。
要素となる下の階層の情報とメッセージの因果関係や、要素から帰納的・演繹的にメッセージが導かれているかを改めてチェックします。
「見出しの理由を要素の情報が説明していない」、「説明すべき前提が省略されている」、「用語の定義があいまいだ」など、反論がすぐに思いつくようなら修正が必要です。
その際には、
- 再度イシューを確認
- メインメッセージで言いたいことの8割ほどが伝わるか
- メッセージから順に「なぜそうなるか?」と問いかけた時に、下の階層が答えとして十分か
などを考慮しましょう。
まとめ
このような作業を通じて、相手の要求やニーズを把握し、手元の情報からそれに対して必要な内容を組み立てて、ワンイシュー、ワンメッセージとして伝えることで、相手にわかりやすく物事を発信して、円滑なコミュニケーションがとれるようになります。
自分の頭の中で論理展開がピラミッド型に構造化されていると、そのまま様々な表現形式に落とし込むことができます。
メモやレポートのような文書にとどまらず、プレゼンのためのスライドやスピーチにも転用することも可能です。
もし、「話がわかりにくい」、「本当にそれで合っているのか」などと言われてしまうことがあるならば、情報の整理と伝え方を工夫してみましょう。
文章の構成のみならず、グラフを用いるなど視覚化してみるのも良いかもしれません。