女性活躍推進法の制定などにより、女性の働く環境が整いつつあります。一方で、育児家事は女性の役割という考え方がいまだに残り、仕事との両立が出来ずに退職を余儀なくされるケースも少なくありません。
出産・育児が障壁とならない働き方改革にはどのようなものがあるのでしょうか?
この記事では、女性に焦点をあてて「働き方改革」の課題や企業の取り組み事例について解説します。
目次
1.女性の働き方改革が求められる理由とは?
1-1.少子高齢化
総務省の将来推計人口では、2010年時点の高齢化率は23.0%、出生率は1.39と少子高齢化が進んでいます。
(出典:総務省 平成24年度情報通信白書)
これに対し、政府は高齢者や女性の労働力の活用を進めていますが、特に女性については深刻な課題があります。出産・育児をしながら就業できる状態でない限り、女性は就業が難しく、無理な推進のしわ寄せは出生率に影響をするためです。出生率が下がれば、少子高齢化が加速し、社会保障の負担が各家庭で増加して教育費がまかなえず、より一層出生率が下がってしまいます。
<働きたくても働けない女性達>
内閣府の調査によると、2010年~2014年における妊婦の就業率は72.2%に上りますが、そのうち約半数の46.9%が第一子の出産後に退職しています。
(出典:平成28年 仕事と生活の調和連携推進・評価部会 配布資料 P.4)
上記と同じ調査の中では在職女性のうち、63.6%が出産後も働く意思を持っているというデータもあり、環境に不足があり、本人の意思に反して育児と仕事の両立が難しかったことが伺えます。特に、正社員は両立が困難であったと回答する割合が高く、課題が多く残されています。
2.政府の対応
上記のような状況に対して、政府は以下のような取組みを進めてきました。
2-1.産休・育休制度の整備
1991年に現在の育児介護休業法の制定を行うなど整備を進め、2007年度以降は女性の育休取得率は8割以上の高い水準を保っています。一方で、従業員数が99人以下の中小企業では、100人以上の企業と比べると普及が進んでおらず、育休復帰支援プランなどのサポートを進めています。(厚生労働省 育休復帰支援プラン策定マニュアル)
また、女性の育児負担が大きいことを考慮し、「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、男性の育休取得率を現状の2.65%から13%にまで向上させることを目指しています。
2-2.テレワークの推進
スムーズな職場復帰や、育児中でも働きやすい働き方として、ICTを活用したテレワークの活用にも力を入れています。国家公務員におけるテレワークの導入を率先して進め、助成金の給付やテレワーク企業の表彰など、普及率の向上に力を入れています。
2-3.長時間労働の減少
長時間労働は、心身の健康を害するリスクがあり、有給休暇の取得率向上や、違法な長時間労働への罰則強化、残業時間の上限設定などの対策をしています。長時間労働が前提の働き方は、働く母親にとって大きな障害ですので、改善は女性の就業継続率向上にも繋がるでしょう。
3.育児中の就業継続への課題は?
上記のような取組にも関わらず、育児と仕事の両立にはまだ多くの課題があります。ここでは、内閣府が2013年度に実施した、就業を希望しつつも退職を余儀なくされた母親への調査結果から課題をあげます。
(参考:内閣府 第1子出産前後の女性の継続就業率の動向データ集)
3-1.保育園や託児所の不足
最も両立を難しくしているのが、保育園や託児所の不足です。就業を希望する女性の数と比較して、保育士の人員不足などにより、保育園が足りない状況が続いています。
3-2.職場での育児との両立支援の制度や理解
産休や育休の実施は法律で定められていますが、その他の制度は職場によって異なります。短時間勤務や在宅勤務の制度が整備されていれば、小さな子供を抱える母親には働きやすい環境となります。
ただし、いくら制度があっても、それを使える環境でなければ意味がありません。女性の多い職場であれば、出産や育児への理解も多いと思いますが、男性が多く、人手も不足した職場では、理解が得られにくく、産休や育休で職場を離れることや短時間勤務に後ろめたさを感じてしまうでしょう。
3-3.夫のサポート
育児と家事と仕事の両立には周囲、特に夫のサポートが極めて重要です。
厚生労働省の調査では、平日に夫が家事育児をしない場合、妻が出産前と同じ仕事を続ける割合は54.3%ですが、夫の家事育児の時間が増えるほど、妻の仕事継続率はあがり、夫が2時間以上家事育児をすると64.4%になります。
4.女性の就業継続への課題に対する働き方改革事例
上記のような課題に対して、各企業の取り組み事例を紹介します。
4-1.企業向け託児オフィスサービス
トヨタ自動車は、国内最大規模である定員320名の企業内託児所を開所しました。託児所は保育園不足を補うと同時に、利便性が高いものですが、多額の費用が必要となり、中小企業では開所が難しいのが現状です。
そのような状況の中、個人事業者向けの託児シェアオフィスサービスを展開してきたMegamiが法人向けのサービスを開始しました。自社で託児所を設けなくても、保育士に子供の世話をして貰いながら働けるスペースを借りられるサービスで、在宅勤務よりも働きやすい環境で作業ができるというメリットもあります。
参考:http://www.ueda-h.co.jp/megami/pdf/20180301kozure.pdf
4-2.テレワークの導入・活用
日産自動車は全ての従業員にチャットや音声ツールを使った在宅勤務の制度を導入しており、育児介護者の場合は所定労働時間の半分までの在宅勤務が認められています。2015年時点での実施者は管理職を含み約4000人にのぼり、利用者への調査では、97%が生産性が向上した、もしくは在宅勤務でない時と変わらないと回答しており、仕事の効率を下げずに働けることが明らかになっています。
テレワークは対象の職種が限られていると考えられることもありますが、IT企業であるNTTデータアイがSEを含む全ての従業員にテレワークを本格導入しているなど、多種多様な企業が導入に成功しています。
4-3.中間管理職の意識改革
職場での理解浸透には、管理職が極めて重要ですが、昔ながらの考え方が抜けない上司もいるでしょう。多くの企業では、管理職へ座学でのセミナーを実施していますが、リクルートマーケティングパートナーズとスリール株式会社が開発した、「育ボスブートキャンプ」は従来のセミナーとは一線を画したユニークな研修です。この研修では、終業後に育児中の従業員の家庭で実際に育児を行うことにより、育児中の女性が直面している課題を強制的に体感させ、意識改革を促します。
参考:http://www.recruit-mp.co.jp/news/release/2016/0630_2977.html
4-4.長時間労働の是正
スウェーデンでは専業主婦の割合がわずか2%程度ですが、男性の育児休暇取得が義務付けられている上に、労働時間の標準は6時間で、子育てへの参加率が高いことが寄与しています。
この6時間勤務の取り組みはZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイが取り入れています。就業規則上は8時間勤務であるものの、6時間で仕事が終了すれば、退社が可能という制度です。実現には無駄の削減が必要なため、たとえば会議資料を廃止し、口頭で説明を行うようにしています。この試みにより、生産性が向上したことが明らかになっています。
従業員の勤務時間を短くする改革は味の素でも成功しています。子育て中の女性だけではなく、全社員の勤務時間が短くなれば、それだけ復職のハードルは低くなりますし、男性社員が家事育児に参加することで、女性の復職率は高くなります。
まとめ
出産・育児後も女性が変わらず働き続けられるような環境の整備は、個人だけではなく国や企業としても取り組まなくてはならない重要な課題です。
先進的で問題意識を高く持つ企業ほど、いち早く改革に取り組んで成功を収め、それが生産性の向上に繋がっています。優秀な女性社員の離職を防ぐためにも、事例を参考に、課題の解決に取り組むようにしましょう。