家計を健全に保つためには、家計簿をつけて金銭の出入りを把握すると同時に適切な予算を立て、予算内に収まるようにすることが重要です。企業においても、収益をあげ、健全な経営を続けるには、予算と実績の管理が大切です。
しかし、コストのほとんどを労務費が占めるIT企業のプロジェクトでは、工数管理が煩雑となり、予算と実績の管理が適切に行われていないケースも少なくありません。この記事では、IT企業に焦点をあてて、予算管理について説明します。
目次
1.予算管理とその重要性
1-1.予算とは
「予算」と聞くと、経費予算や原価予算のように、コストをこの範囲に抑えるべき、という指標であることが最初に頭に浮かぶと思います。しかしながら、企業においては、売上予算や利益予算のように、経営上の到達目標も予算に含まれます。
1-2.予算管理はなぜ重要か
予算管理には、予算を立てるだけではなく、立てた予算に対しての達成度(実績)を確認・分析するステップが必ず入ります。そのため、企業によっては予実管理と呼ぶこともあります。このサイクルを回していくことで、企業活動を見直し、売上と利益を増加させることに繋がります。予算管理は経営上、非常に重要な活動です。
また、全社的には損益が黒字になっていても、複数のプロジェクトを抱えている場合には特定のプロジェクトで赤字になっている可能性があります。赤字プロジェクトについては、改善が見込めない場合には、終了させる判断も必要となります。そのため、全てのプロジェクトにおいて予算管理を適切に行う必要があります。
2.IT企業のプロジェクト予算とは
それでは、IT企業のプロジェクトにおける予算とはどのようなものがあるのでしょうか?主なものを4つあげます。
<売上予算>
プロジェクト単位の売上予算は、売上の目標値というよりは、見積もりに基づく受注の見込み金額となります。
<外注費予算>
発生予定の外注委託の予算です。委託内容や委託先が未決定でも、過去実績に基づいて概算の予算を組みます。
<経費予算>
想定される出張費、接待交際費、物品購入の予算です。
<工数予算>
開発にかかるエンジニアの工数の予算です。プロジェクトにおけるコストの中で最も割合が高くなるのは、労務費です。そのため、工数予算と実績の乖離が大きいと、一気にコストが嵩み、赤字に傾きやすくなります。
プロジェクトの途中で、想定外のことも起きますが、実績を管理し、定期的に確認することで、予算から乖離しそうな場合にあらかじめ対策を立てることができます。そのため、工数の見積もりと同時に、実績工数を適切に把握し管理することが重要となります。
3.プロジェクト予算管理の課題
予算管理は会社経営にも、プロジェクトの推進にも重要ですが、プロジェクトが終わってみたら破たんしていた、というケースも起こります。どのような課題があるのでしょうか。
3-1.実績工数の入力が不正確
本来、工数の入力は毎日行うことが望ましいです。しかし、複数の工程を抱えて多忙な中では、工数への意識が低いと、まとめて1か月分入力するというメンバーもいるでしょう。
まとめての入力では、入力内容が極めて不正確となりやすいため、いざ集計してみたらズレが生じていることがあるかもしれません。また、何とか帳尻を合わせられていたとしても、各工程にかかった工数を正確に把握できていなければ、以後の工数見積もりの精度にも影響してしまいます。
3-2.工数集計が煩雑になる
工数管理の精度が落ちるのは、入力者側の問題だけではありません。メンバーによって工数単価が異なったり、複数のプロジェクトを抱えたり、社内の研修など他の業務を行うメンバーがいた場合には、集計が煩雑になりやすくなります。
また、工数集計が煩雑だからと言って、締日前にまとめて集計と確認を行なおうとすると、既に予算と実績の乖離が大きくなってしまっている可能性もあります。
3-3.外注委託費の見積りが甘い
予算管理において極めて重要で、かつ課題も多いのは工数管理です。しかし、外注委託費についても見積もりが甘いと、実績との差額が大きなものとなる可能性があります。
たとえば、スケジュールがタイトであると、準備期間が不足し、委託先への指示書が不十分なまま委託作業を開始して貰い、手戻りや追加が発生することがあるかもしれません。また、開発途中で顧客からの追加要望が入る、ある工程での工数が嵩む、などで外注に依頼したい作業が増えることもあるかもしれません。プロジェクトリーダーは、外注とのやり取りを行うメンバーに一任するのではなく、ある程度の予算感とリスクを考慮して、外注予算を見積もり、進め方もアドバイスする必要があります。
4.工数予算管理の精度をあげるポイントとは
このように予算管理は重要でありながら、課題も存在します。予算管理の精度を上げるにはどのようにしたら良いのでしょうか。特に、工数予算管理の精度の向上に繋がるポイントについて取り上げます。
4-1.工数入力を簡便化する
実績工数の入力精度が落ちるのは、入力者が毎日入力するのを面倒に思い、まとめて入力することに原因があります。そのため、毎日入力して貰えるように入力を簡便化する必要があります。
たとえば、勤怠管理は勤怠管理システムを用い、工数管理はエクセルで行っている企業もあるかもしれません。しかし、本人にとっては作業時間の記録という同じ作業を別々に入力するのは極めて面倒に感じます。勤怠管理は基本的には毎日行うものですので、勤怠管理の際に一緒に工数入力ができるようなシステムの利用などが便利でしょう。近年では、勤怠管理機能と工数管理機能を有したプロジェクト管理ツールが登場しています。
4-2.工数管理のメリットを感じてもらう
工数入力が簡単になったとしても、工数管理が「やらされているもの」である限り、入力は適当となり、精度が一定以上は上がりにくくなります。
そこで、工数管理は入力者本人の成長に繋がるということも認識して貰う必要があります。実際に、工数を入力し、確認することで、本人も自分の作業を見直し、効率を上げることに繋がります。人間は、成長とそれを実感することへの欲求があります。仕事の成果は数字では表しにくいものもありますが、工数は客観的な数字として捉えることができます。
4-3.予算との乖離を定期的に把握する
予算の精度をあげたとしても、突然の事態は起こります。そのため、実績が予算とかい離をした際になるべく早期に発見し、調整することが大切です。
そのためには、管理側も工数を適切に集計し、定期的に確認する必要があります。集計が煩雑だと、どうしてもまとめて行いたくなってしまいますので、システムの利用などで集計を簡易化することも検討すべきです。工数は、本来どこかのフェーズ、もしくは誰かの負荷に偏りが生じていないかを簡単に確認することができる重要な指標です。定期的な確認により、プロジェクトの円滑化に繋げましょう。
まとめ
この記事では、IT企業のプロジェクトにおける予算管理の重要性とその課題、解決のポイントを説明しました。予算管理は、健全な経営のためにも、プロジェクトの円滑な進行のためにも重要です。プロジェクトの場合には特に、工数管理の精度を上げることが大切です。今一度、工数管理のメリットを見直し、簡単かつ継続的に工数管理を行える仕組みづくりを行いましょう。