2017年に実施された、「IT投資動向調査」によると企業のIT投資予算は年々増加傾向にあります。一方で、人手不足と労働環境の改善が求められる中で、IT企業が増加する受注に対応するには、健全な経営と開発の効率化が必要不可欠です。かつて、「デスマーチ」と呼ばれたような消耗する開発体制では、競合他社との競争を勝ち抜くことはできません。
この記事では、IT企業の健全な経営、プロジェクト運営に必要な予実管理について、その重要性やポイントを解説します。
目次
1.予実管理の概要と重要性
たとえば、貯金やダイエットなど何か目標がある時には計画を立てると同時に、途中で順調に進んでいるか、軌道修正が必要か確認をすると思います。これを企業に置き換えたものが、予実管理です。
つまり、大きな経営目標に対して、達成すべき各目標を数値化し(予算)、定期的に現状(実績)と比較することを指します。この予算には、営業利益や経常利益、売上や販売管理費、設備投資費など様々なものがあります。
このように、経営目標を細分化し、それぞれの予実を定期的に管理することにより、どの程度予算と実績にかい離が生じているか、どこに原因や課題があるか、どのように軌道修正をしていくかを迅速に判断することができます。適切な予実管理は健全な会社経営に必須です。また、このプロセスを回していくことにより、企業活動は改善を重ねていくことができます。
2.プロジェクトにおける予実管理と重要性
一般的に、「予算」と聞くとお金に関するものという想定がされますが、企業における「予算」とは「目標」であり、お金に関連するものに留まりません。たとえば、営業部門での顧客訪問件数や問い合わせ件数、製造部門での歩留り率なども含まれます。つまり、設定する大目標を達成するために、重要な指標であり、定期的に確認すべきものが対象となります。
IT企業のプロジェクトマネジメントにおいては、売上や経費、工数や進捗の管理などが予実管理の対象となります。それでは、プロジェクトではなぜこれらの指標の設定と予実管理が重要なのでしょうか?
2-1.プロジェクトの収支を適切に管理し、利益を生み出すため
プロジェクトの収入には売上が入ります。一方で、支出には、経費や外注費、仕入費、労務費、販売管理費など多くの項目が入ります。たとえ大口の受注が決まっても、これらの支出部分を管理せず、どんぶり勘定をしていると、プロジェクトが終了した際に赤字に気づくということが起こりかねません。
利益を生み出すプロジェクトにするため、そのための適切な収支管理をするためには、収入面、支出面の両方に対して予算を設定し、定期的に実績と比較することが大切です。
2-2.効率的な開発を行うため
IT企業での開発業務では、不測の事態の発生や顧客からの追加要望などにより、計画通りに進まない場合も少なくありません。複数プロジェクトを掛け持ちしている担当者がいる場合などには、ある部分の遅れが与える影響が大きくなる可能性もあります。そのような場合に、不測の事態の影響を最小限にとどめ、効率的な開発をするには、開発進捗の予実管理が非常に重要です。
また、効率的な開発は会社の利益に直接的な影響を与えます。それは、IT企業において、開発工数はコストの中で大きな割合を占めており、これを削減することで利益率を向上させることが可能なためです。また、労働環境が改善されれば、社員は仕事の生産性を上げることができますし、優秀な人材を確保することにも繋がります。
3.プロジェクトの予実管理のポイント
それでは、実際にプロジェクトの予実管理を行う際には、どのような点がポイントとなるのでしょうか。
3-1.予算計画の精度
目標は高すぎても、逆に低すぎても好ましくありません。高すぎる目標は明らかに達成が困難であり、達成するために努力をしようとする気さえも起きない、形骸化された指標になってしまうためです。低すぎる目標については、簡単に達成できるために、あぐらをかいてしまい、課題を見つけ、改善することが行われなくなります。
プロジェクトの進捗管理においては、最初に要件定義をしっかりと行うことで、顧客やメンバーとの間での認識のズレを抑え、開発計画の精度を上げたり、不測の事態の発生を防ぐことができます。
3-2.予実を定期的に確認すること
そもそも、予実管理の目的は、目標と実際の状況の間におきたかい離を早期に発見し、軌道修正を行うことにあります。そして、そのためには定期的、出来ればリアルタイムでの確認が必要です。何か問題が発生しても、予実管理で早期に発見することができれば、取りうる解決法の選択肢も広く、最適な解決を行うことができます。逆に、予実の確認を怠れば、気づいた時には取り返しがつかなくなっていることも起こり得ます。
3-3.集計や修正が簡便であること
上記のような予実の定期的な確認から遠ざける一番の原因は、それが面倒であることでしょう。たとえば、経費や工数の集計を行うことや、そもそもメンバーが入力してくれないのでリマインドすることに手間が取られていないでしょうか。あるいは、エクセルで作成したガントチャートの修正や実績との比較が大変であったりしないでしょうか。忙しい状況の中で、定期的に手間が発生してしまうと、まとめて行おうと思ってしまうかもしれません。
これらの入力や集計、管理はシステムやツールの利用で簡便化することができます。グラフなどでわかりやすく可視化されていることも多く、会議で進捗を報告したり、課題の共有を行ったりする際にも便利です。
なお、その際に導入するシステムやツールが簡単で直観的に使えることも大切です。せっかく導入しても、使用する度に説明書が必要であるとやはり定期的な利用、確認から遠ざかってしまいます。
3-4.見える化されており、メンバーのモチベーションが高いこと
予実の精度をあげるためには、管理者であるプロジェクトリーダーだけではなく、各メンバーの協力が必要不可欠です。一般的に、進捗管理や工数管理は、管理をするもの/されるものという認識が強いですが、担当者本人の業務効率を改善するためにも役立てることができます。
たとえば、自分の毎日の工数や各工程での工数などが、日々グラフ等で見える化されていると、メンバーにとっては自身の成長を実感することができ、より精度の高い実績の入力を行うモチベーションを高めることができます。また、開発の効率化や改善などにも繋がり、生産性が向上することにも期待ができます。
3-5.原因の分析と次アクションへの反映が適切に行われること
予実管理で最も重要なのは、予実を比較した際の分析です。リアルタイムでの分析で、問題が発見された際に手を打つのはもちろんのこと、プロジェクト終了後にかい離がない、もしくは少ない場合にも見直しが必要です。
たとえば、経費のうち、何が大きくなっているのか、それは必要なのか、工数の中でどの部分が大きくなっているのかどを確認します。すると、無駄を発見したり、開発スケジュールの精度を高めたり、アウトソースの検討など、次回の開発の効率化や予実の精度向上に役立てることができます。
まとめ
この記事では、企業、特にIT企業のプロジェクトにおける予実管理の重要性とポイントを説明しました。精度の高い予実管理は、健全なプロジェクト運営に必要不可欠です。システムの利用など、簡易的な集計により定期的な確認をすることで、予実管理の効率と精度を上げることができます。今一度自分のプロジェクトの管理方法と予実管理の重要性について見直してみてください。