少子化に伴い、人手不足が社会的に深刻な問題となっています。各企業は、社員が長く働き続けられるように労働環境を整えています。労働力の補強や継続には、様々な雇用形態を取り入れ、勤務形態に柔軟性を持たせることが必要です。そこでこの記事では、雇用形態や勤務形態の基本情報を注意点も含めて解説します。
目次
1.主な雇用形態とメリット・デメリット
1-1.正社員
一般的には、期間の定めのない労働契約(正規雇用)を結んだ労働者を指します。
<メリット>
- 長期的な育成
雇用期間に定めがなく、長期的な育成が可能です。業務で得た知識や経験は、社内リソースとして蓄積できます。
- 優秀な人材の確保
安定的な雇用で、労働者にとって魅力的な雇用形態です。そのため、応募数が多く、優秀な人材の採用に繋がります。
<デメリット>
- 固定費がかかる
本人の希望や解雇以外で、退職させることはできません。福利厚生費を含めた人件費が固定的に発生します。
1-2.派遣労働者
期間に定めのある労働契約(非正規雇用)の1つです。雇用契約は派遣元である人材派遣会社と結んでいます。
<メリット>
- 短期的な戦力の補充
短期的な人手不足に対し、即戦力として補充できます。期間が限られるため、固定費を抑えることができます。
- 教育育成のコストが省ける
派遣元で必要な研修や教育が行われています。そのため、社内教育を行うコストを抑えることができます。
<デメリット>
- 3年を超える業務には、正社員転換が必要
2015年の労働者派遣法改正まで、専門スキルが必要な26業種で行われていた特定派遣については、派遣期間に制限がありませんでした。
しかし、法改正により全ての派遣社員の派遣可能期間が3年となりました。そのため、2018年の9月30日以降は、派遣期間が3年を超えると正社員としての雇用が必要です。正社員には、固定的な人件費が発生します。
参考:厚生労働省 平成27年労働者派遣法改正施行から3年を迎えるにあたっての確認事項【派遣先の皆様へ】
1-3.契約社員
非正規雇用の1つです。企業と直接雇用契約を結びます。
<メリット>
- 自社の選考基準で採用し、短期的に戦力を補充できる
短期的に戦力を補充でき、固定費の削減が可能です。派遣社員の場合、派遣先企業が本人と直接面接することはできません。そのため、求める人材とのミスマッチが起きることがあります。
これに対し、契約社員は自社にて採用を行うため、求めるスキルや人物像が自社にマッチする確率が高くなります。
<デメリット>
- 5年を超える業務には、無期雇用契約が必要
契約期間が5年を超えた際に本人が申し出た場合は、無期契約を結ぶ必要があります。無期契約は固定費が発生します。なお、一部の専門職では上限を伸ばすことのできる特例が存在します。
参考:厚生労働省「高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換のルールの特例について」
1-4.パートタイム労働者
直接雇用で、労働時間が所定労働時間よりも短い労働者です。
<メリット>
- コストを抑えて事務作業などを依頼できる
一般に、正社員より給与が抑えられています。そのため、正社員を増やすほどではない作業に採用すれば、コストを抑えることができます。
<デメリット>
- 残業が難しい
家事・育児等で短時間勤務を選択しているため、残業が難しくなります。法律上は、法定労働時間までの残業は問題ありません。しかし、政府は所定労働時間を超えないように努めるよう指針を出しています。残業が不要であるように業務量を調整する必要があります。
1-5.短時間正社員
所定労働時間が短い正社員を指します。
<メリット>
- 優秀な社員の確保
介護や家事・育児と仕事の両立には多くの課題があります。所定労働時間を減らせば、その両立の難しさが緩和されます。そのため、豊富な経験を持つ優秀な社員を確保できます。
<デメリット>
- 仕組みづくりが大変
給与や賞与の算出方法など検討するべき事項があります。なお、政府がガイドラインを制定しています。
2.勤務形態
介護や家事・育児と仕事の両立支援のため、柔軟な勤務形態が広がりつつあります。主なものを説明します。
2-1.フレックス勤務
就業が必須な時間(コアタイム)に就業していれば、労働者が勤務開始時間と終了時間を設定できる制度です。たとえば、下記の図において、8時間労働が所定労働時間の場合、7時に出社し、15時の退社が可能です。
なお、給与計算のために、期間を区切って労働時間を精算する必要があります。この精算期間の上限は働き方改革関連法により、1ヶ月から3ヶ月にまで拡大されました。
(出典:厚生労働省 長野労働局 変形労働時間制)
2-2.裁量労働制
労働時間の管理を個人の裁量にゆだね、実際の勤務時間に関わらず、予め定めた「みなし時間」労働したとするものです。19種類の専門業種が対象で、導入とみなし時間の制定には労使間での合意が必要です。
業務を効率的に進めることが出来れば、労働時間に対しての賃金は大きくなりますが、逆に時間がかかれば、小さくなります。後者への懸念から、問題視されています。
この裁量労働制のメリットのみを取り入れた働き方を、トヨタ自動車が2017年から実施しています。主任級以上の一部の社員において、45時間分の残業代を「みなし残業代」として払うというものです。この制度の特徴は、45時間を超える残業については、残業代が上乗せされる点です。残業を抑えた社員にはメリットがあり、残業が超えた社員にもデメリットはありません。
2-3.テレワーク
働く場所をオフィスに限定しない勤務形態です。インターネットの普及やWEB会議システムなどにより、パソコンがあればどこでも働けるようになりました。通勤を省くことができれば、通勤時間やストレスを減らすことができます。また、業務に集中できるというメリットもあります。
3.客先常駐は問題なのか?
IT業界では、偽装請負や多重派遣が問題として取り上げられます。どのような点が問題なのでしょうか?
3-1.偽装請負とは?客先常駐との関連は
偽装請負とは、業務委託・請負として契約していながら、実態は労働者派遣であることです。業務委託・請負と労働者派遣には以下の違いがあります。
<労働者派遣>
派遣元企業から、派遣先企業に派遣される形です。役務を目的としており、業務指示は派遣先企業から受けます。労働者派遣法により、派遣期間などに制約があります。また、派遣先企業は労務管理を行う必要があります。
<業務委託・請負>
成果物の制作を目的とした業務の委託です。業務指示は委託元(受注者)が行います。労働者派遣法の適用外で、労務管理は委託元で行われ、委託先(発注者)は管理の必要がありません。
制約や管理の手間を省くために、偽装請負を行うケースがあります。客先常駐は、派遣契約の場合には問題ありません。しかし、業務委託・請負の契約としている場合には、労働者派遣法が適用されます。労働者との間に労働契約が結ばれているとみなされると、雇用義務が発生します
3-2.多重派遣
派遣先企業が、派遣社員を他社に客先常駐などで派遣することを指します。職業安定法44条で禁止されており、罰則が存在します。また、労働基準法6条で禁止されている中間搾取にも該当し、複数の法律に抵触します。
4.勤務時間の管理方法
労働者の労働時間や休暇の取得状況は、正しく管理されなければいけません。多様な雇用形態、勤務形態の労務管理を人の手で行うことは困難です。システムを利用することで、手間を省き、正確に記録することができます。
まとめ
多様な雇用形態や勤務形態を取り入れることで、費用対効果の高い労働力の補充が可能です。システムを利用すれば、簡単かつ正確に労務管理を行なえます。一方で、違法なケースもあります。正しい理解によりリスクを防ぎ、人手不足の解消を行いましょう。