日本の働き方が問われるようになり、働き方改革が進められています。2019年4月からの有給休暇の取得義務化もその1つです。
この記事では、有給休暇取得義務化の内容からそのメリット・デメリット、取得率を向上させる制度や環境まで解説します。
目次
1.有給休暇取得の義務化とは
労働基準法では、勤続年数に応じた年次有給休暇(以下、年休)の付与を義務付けています。具体的な日数は、厚生労働省のホームページに記載されています。
しかし、取得までは義務付けられていませんでした。そこで、2019年4月1日以降は、年10日の年休を得ている労働者に対して、5日は取得させるよう義務付けました。取得日数が5日を下回る労働者に対しては、企業側が聞き取りを行った上で、不足日数分の取得日を指定しなければなりません。これを順守しない企業には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
2.なぜ義務化が必要なのか?
年休の取得を義務付ける背景には、日本の年休取得率の低さがあげられます。厚生労働省の平成29年の調査によると、平均付与日数は18.2日なのに対して、取得日数は半数以下、取得率は49.4%にとどまっています。これは、主要国の中で最下位です。
そして、このような低い年休取得率は、人手不足を抱える中で、以下のような深刻な影響を及ぼすと考えられます。
2-1.休職者の増加
過重労働などによる労災件数は年々増加傾向にあり、休職者の増加は企業にとって深刻な問題になっています。
2-2.介護・育児と仕事との両立困難
年休が取得できないことは仕事との両立を難しくします。これにより、離職率が高まると考えられます。
2-3.新規採用人数が集まらない
労働環境は、職場を選ぶ重要な要素の1つです。年休の取得率の低い企業は魅力が低く、新規採用の応募数が少なくなる可能性があります。
3.有給休暇取得義務化の企業側のメリット・デメリット
3-1.メリット
人手不足の改善
年休取得義務化には、企業側にもメリットがあります。年休取得率が増加すれば、休職や離職数を減少させ、新規採用数を集めることに繋がり、人手不足の改善が期待できます。
スキルアップや仕事の効率化に繋がる
休暇前に引継ぎを行う側は、業務の棚卸ができます。また、受ける側は、一時的でも多様な業務を行うことになり、スキルアップが期待できます。さらに、普段とは異なる視点が得られ、務の効率化や質の向上に繋がる可能性も期待できます。
3-2.デメリット
管理や取得を奨励する仕組みづくりの必要性
一方でデメリットもあります。デメリットとしては、管理や取得を奨励する仕組みづくりが必要であることです。労働時間が多い企業では、無理に取得を義務付けても勤務日の労働時間が増加する可能性があり、抜本的な改革も必要となるでしょう。
4.有給休暇の管理方法
ここでは有給休暇の管理方法を解説します。
4-1.システムによる取得状況の把握
手間をかけずに正確に管理するには、勤怠管理システムや労務システムの利用が便利です。年休の取得日数、残日数の確認はもちろん、システムによっては期限切れ前にアラートを出してくれるものもあります。売れ筋の勤怠管理システムは、こちらで紹介しています。
4-2.部門別の有給休暇取得率の公開
定期的に取得率を全社に公開することも、取得率が低い部門に危機意識を持たせるために有効です。年休の取得率は、以下の計算式で算出できます。
有休休暇取得率=(算定期間中の取得日数計/算定期間中の付与日数計※)× 100(%)
※算定期間中の付与日数計には繰越分は含まない。
5.有給休暇管理の注意点
また、有給休暇の管理には以下の注意点があります。
5-1.一斉付与の場合は、勤務期間によって付与日数が異なる
一斉付与とは、年休を付与する日を全社で同じにすることです。決算月や4月1日などの日に行われ、効率的な方法です。しかし、付与日数は、勤続年数や勤務状況によって異なります。これらを正しく算出し、付与するにはシステムの利用が適しています。
5-2.有給休暇の買取り禁止
多忙な職場では、消化しきれない年休を買い取って欲しい、という声もあるでしょう。しかし、ほとんどの場合は違法となります。年休の付与日数が法定日数を上回る場合などには、買取りが可能ですが、基本的には取得を推奨するようにしましょう
6.有給休暇取得を奨励する環境や制度
厚生労働省の資料によると、年休取得率が向上しない背景には、職場の雰囲気や在り方が関係していると考えられます。どのような制度や環境が必要なのでしょうか。
6-1.計画的付与制度の利用
労使協定を結べば、年休のうち5日を除いた残りの日数については、企業が計画的に取得日を割り振ることができます(計画的付与制度)。全社一律に同日に休暇を取得させるだけではなく、誕生日や結婚記念日など個人によって異なる日に取得を奨励することも可能です。この制度を利用している企業は、利用していない企業と比較して、8.1%年休の取得率が高いことがわかっています。
6-2.時間単位年休の導入
時間単位での年休取得も、年5日(40時間)までは労使協定を結べば可能です。終日の年休と比較して、取得に抵抗感がなく、年休取得を促すことができます。
7.IT企業での取り組み事例
厚生労働省の調査では、IT企業は他業種と比べて労働時間が高いとされています。このような業種では、年休取得率の増加はより難しくなるでしょう。しかし、年休取得率向上に成功した企業もあります。厚生労働省のHPに記載されたB社の事例を取り上げます。
7-1.インセンティブ制度
部門の年休の取得率と残業時間に応じて、賞与に反映させる仕組みです。
7-2.休暇の見える化
社内で支給するカレンダーには、20枚の「有給シール」が付属しています。年度初めもしくは3か月ごとに自分のカレンダーにシールを貼り、年休の取得計画を立てます。
7-3.バックアップ休暇
海外には、年休と病気による休みを分けている国もありますが、日本ではあまりありません。B社では年休を使い切った従業員が病気になった際には、3日間休暇を追加する「バックアップ休暇」を設定し、病気のために年休を残しておくことを防いでいます。
8.IT企業で制度を機能させるポイント
上記のように制度を整えても、業務の進め方を変えなくては、日頃の残業時間が増えるだけになってしまう可能性があります。そのため、以下のような取り組みを行い、業務負荷自体を減らす必要があります。
8-1.要件定義の明確化と顧客の理解
システム開発では、顧客の求める過剰品質や度重なる仕様変更により、業務が膨れ上がることがあります。これを防ぐために、あらかじめ要件定義を明確にしておくこと、また自社が労働環境改善に取り組んでおり、そのため深夜対応が難しいことなどを顧客に理解して貰う必要があります。
8-2.大型プロジェクト多段階契約
大型のプロジェクトでは、関係者が多く、対応範囲も広いことから、調整や共通理解を得ることに時間が取られ、労働時間が長時間化する傾向にあることがわかっています。これに対応するためには、複数プロジェクトに分割する、契約を多段階に分割するなどが必要です。
8-3.ツールを利用した進捗状況や業務の見える化
開発のスケジュール進捗や、メンバーへの業務の偏りなどを見える化し、進捗に遅れが生じている際や業務に偏りがある際に、迅速に対応できるようにしておくことも必要です。プロジェクト管理のツールを利用すれば、簡単に可視化することができます。
9.まとめ
多忙な企業にとっては、有給休暇の取得義務化は負担と考えられるかもしれません。しかし、有給休暇取得率の向上は企業にとってもメリットの大きいものです。この記事を参考にして、有給休暇取得を奨励する制度や環境づくりを行なってください。