2019年4月より、働き方改革関連法が施行されました。人事担当者の方は、自社の業務の進め方や制度の見直しが必要となり、頭を悩ませているかもしれません。
働き方改革で、多様な働き方を支援したり、労働時間を減少させたりするには、業務の効率化が不可欠です。この記事では、業務効率化について、成功の秘訣と役立つツールやサービスを紹介します。
1.働き方改革で、業務効率化はなぜ必要なのか?メリットは?
働き方改革の代表的なものには、長時間労働の是正や、多様な働き方の導入があります。これらが必要とされるのは、労働生産性を高めることに繋がると考えられているからです。
OECDの2015年の統計調査では、1人あたりの労働時間が低い国では、生産性が高いことが明らかになっています。たとえば、OECD諸国の中で、1人あたりの労働時間が最も低いドイツでは、総労働時間が1300時間です。これは、日本よりも労働時間が20%低いですが、一方で、生産性は、日本を50%近くも上回っています。つまり、1人当たり労働時間が10%減少すると、労働生産性は25%高くなるとされているのです。
(出典:内閣府「平成29年度 年次経済財政報告」)
この背景としては、従業員の士気を高め、欠勤や離職率を下げる働きがあるなど直接的なものの他、対外アピールにより、優秀な従業員が集まりやすくなることなどの間接的なものも考えられています。
2.業務効率化を成功させるポイント
このように、労働時間の削減は、生産性向上に繋がりますが、そのためには業務の効率化が不可欠です。業務効率化を成功させるには、どのようなポイントがあるでしょうか。
たとえば、残業時間の削減のために、深夜の残業や休日出勤を禁止したり、制限をかけたりすることなどが考えられます。しかし、やみくもに残業時間を減らしても、スキルアップのための研修など必要な時間を減らし、逆に生産性が低くなることに繋がる可能性もあります。
そこで、普段時間がかかっていると認識しているものや、職場にある無駄な習慣についての、現場でのアンケートやヒアリング調査を行うことが必要です。また、客観的な判断のためには、労働時間や工数などを見える化して把握することも重要です。
3.業務効率化を妨げる課題
ここでは、考えられる課題についていくつか例をあげます。自社の中での課題の参考にしてみてください。
<社内会議が多い>
チームワークを大切にする日本企業では、共有のための会議が多くなりがちです。本来、会議に必須ではない人やメールで十分な内容に対しても、対面での情報共有を行うことが習慣化していないでしょうか。会議には、資料や議事録の作成、スケジューリングや場所の確保など付随する業務が発生します。
<付帯業務や単純作業に時間がかかる>
上記にあげた会議の準備のような、ある業務に付随する業務にも時間が発生しています。たとえば、納品書や検収書などをスキャンした後に、ファイル名を変更し、保存するなどの単純で些細な入力作業が定常的に発生したり、また数が多かったりする場合には、相当な時間になります。
<移動時間によるロス>
働く場所を所属するオフィスに限定する場合、移動時間によるロスも発生します。たとえば、出張前後に業務が必要な場合、一度オフィスによってから、出張に向かったり、出張から一度オフィスによってから、帰宅したりする場合には、遠回りになる可能性があります。
<属人的な業務が多い>
業務によっては、仕事の進め方や、業務に必要な情報が属人化されていることもあります。このような場合には、担当者が不在になると業務が滞りますし、部署異動や退職がおきる度に、業務の引継ぎに時間を要することに繋がります。
4.業務効率化の課題を解決するための制度やツール
上記のような課題を抱える企業は少なくありませんが、AIなどのIT技術の発達により、これらの課題解決をサポートするツールやサービスが登場しています。代表的なものをいくつか取り上げますので、参考にしてください。
<作成資料の削減や、ペーパーレス会議>
日本企業の働き方は、過剰品質になりがちです。社内会議の場においては、見栄えの良い資料を作成しなくても、議論や報告に必要な最低限の情報を箇条書きにしたり、口頭で説明したりするなどでも十分な場合があります。これまで慣習的に作成していた資料が、本当に必要なものなのか、目的に照らし合わせて、今一度見直してみましょう。
また、会議を開く際にも、ペーパーレス会議などの方法があります。会議資料を印刷・配布する必要がなく、付随する業務を減らすことができます。最近では、議事録を自動作成してくれるツールも登場しています。
<単調な作業の自動化>
近年、RPA(Robotic Process Automation)が注目されています。RPAとは、繰り返し発生する単調なデスクワークをシステムにより自動化する方法です。ある業務を行う際にエクセルや、管理システムなどの複数のシステムを利用して、転記や入力を行う場合に、これらの作業を自動化することができます。RPAを利用すれば、人が手入力で作業を行う場合に比べて、大幅に時間を削減することができます。
2019年3月に東京都が行った実証実験では、29種類の定型業務にRPAを導入したところ、25業務において、年間あたり438時間の縮減効果が得られています。(参考:東京都 RPAによる作業自動化の共同実証実験報告)
また、ヒューマンエラーを防ぐという効果もあります。RPAを導入するには要件定義をしっかりと行う必要がありますし、費用も大きくなります。しかし、スキャンした電子データファイルのファイル名を自動変更するなどの個々の作業であれば、簡単なソフトウェアを導入することで、自動化できる場合も多くあります。自社の中で、どの単調作業に時間を取られているのかを把握し、部分的にもツールやシステムで代用すれば、大きな効果が得られることが期待できます。
<グループウェアの利用>
会議と同様に時間を奪いやすいのが、メンバー間の情報共有やコミュニケーションがうまくいかないことによる、誤解や手戻りの発生です。このようなミスコミュニケーションは情報の見落としや伝言ゲームのような情報共有から発生する場合が多いと考えられます。そこで、グループウェアを利用すれば、関係者への情報共有を簡単に行うことができます。チャットを利用したやり取りも、メールよりもレスポンスが速く、迅速なコミュニケーションを取ることに役立ちます。
<プロジェクト管理ツールの利用>
業務を効率化するには、適切なスケジュール設定とチーム編成、工数管理が必要です。
プロジェクト管理ツールには、工数管理機能やガントチャート機能、レポート機能が含まれており、活用することで進捗管理や工数管理、プロジェクト状況の可視化などを効率的に行うことができます。クラウド型のサービスが多いので、プロジェクト管理ツールを活用することでリモートワークであっても円滑にこれらを共有することができるでしょう。
<Web会議や仮想デスクトップを利用したリモートワーク制度>
Web会議や仮想デスクトップを利用すれば、働く場所にとらわれずに業務を行うことができます。そのため、出張前後や悪天候時の交通機関の乱れによる移動時間のロスを防ぐことができます。また、介護や育児を行う従業員にとっては、業務と両立しやすくなります。これらのシステムでは、社外にいながらも、セキュリティを確保しつつ、通常の業務や会議を行うことができます。現在、多くの業務はパソコンさえあれば、進められる仕事が多くありますので、オフィスでの業務が必須であるのか、今一度見直してみてはいかがでしょうか。
また、在宅勤務やリモートワークに対しては、本当に従業員が業務を行っているのか、顔認証をしたり、定期的に画面キャプチャを行ったりすることで管理することができるツールもあります。
5.まとめ
働き方改革は、生産性の向上などのメリットも大きいものです。生産性を保ちながら、働き方改革を進めるには、労働時間の減少とそのための業務効率化が不可欠です。IT化によりシステムやツールが多数登場しており、それらの導入で、業務効率化を促進することができます。自社の課題を明確化した上で、適したツールを導入し、働き方改革の成功に繋げましょう。