会計手法には財務会計と管理会計の2種類があります。
通常の財務会計は、社外のステークホルダー向けに会社全体の財務状況を説明するものであり、ITプロジェクトの可視化には一般的に活用しないもので、ITプロジェクトの収支状況を可視化する際に役立つのが、管理会計です。
この記事では、管理会計の概要とITプロジェクトに管理会計を導入するメリット、ITプロジェクトの管理会計を効率化する方法を解説します。
1. 管理会計とは?
ここでは、管理会計と財務会計の違いや管理会計のメリットなどを解説します。
1-1. 管理会計の意味
管理会計は、内部報告会計とも呼ばれ、企業の経営管理者が会計情報を意思決定や組織の業績測定・業績評価のために使うことを目的とした会計のことです。すなわち、管理会計は、社内の経営管理のために導入する会計手法で、会社の舵取りのために必要な情報を、必要なタイミングで、見やすいフォーマットで抽出・加工し、その時点の会社の状況を把握・アクションをとるためのものです。基本的には、部門別に管理会計を取り入れている企業が多いでしょう。
以下は、管理会計で扱う具体例です。
- 原価計算(部門別、商品別など)
- 予算管理・予実管理
- 損益分岐点分析
- 部門別KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)設定と管理
1-2. 管理会計と財務会計の違い
続いて、管理会計と財務会計の違いを整理して見ましょう。
目的の違い
財務会計が株主や金融機関、税務署などの外部ステークホルダーに会社の業績や資産状況などを理解してもらうことを目的としているのに対し、管理会計は経営者や部門管理者などの社内ステークホルダーが自社の経営状況を知り、意思決定や業績測定・評価を行うことを目的としています。
法的な違い
財務会計が法律や会計基準に基づいて算出され、報告書作成タイミングや記載方法などが厳密に規定されているに対し、管理会計は社内利用目的のため外部からの規制はなく、報告書作成タイミングや数値の取得方法、記載方法などは社内で自由に決められます。
作成する資料の違い
財務会計が貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表であるのに対し、管理会計は、業績管理資料や取締役会資料などです。事業の定量的な目標としているKGIやKPI、損益計算書の項目などを管理会計では扱うことが多いでしょう。
1-3. 管理会計のメリット
管理会計には以下のメリットがあります。
スピーディーな意思決定ができる
管理会計を導入することで、事業部長などの経営管理者が知りたい情報をタイムリーに得ることができるため、経営的な異変等を早期に発見でき、スピーディーな意思決定ができます。例えば、特定の販売チャネル強化、新商品開発・商品の統廃合などです。
業績管理が容易になる
管理会計を導入すると、経営目標からブレークダウンされた部門ごとの目標も明確になります。
会社の業績に直結する部門別KPIが設定できるのです。これを応用して、チャネルごと、商品ごとなどの様々な目標設定や業績評価を行えるので、きめ細かな経営管理ができるようになります。
経営的な視点が浸透する
管理会計を導入すると、各部署の担当者が自分の部署のKGI・KPIを意識するようになります。
KPIは元々KGI(全社的な目標)がブレークダウンされたものなので、自然と経営的な視点が組織に浸透します。部門目標が達成できていない時は、その原因を分析し、部門目標回復のための計画を立て、実行し、その結果を見て評価するといった、PDCAサイクルも自然と行えるようになるでしょう。また、次年度予算を作成する時に、本年度の実績を見据えたうえで、各部門が自主的に会社業績を意識した部門予算を作成するようにもなるでしょう。
業績評価が公正になる
管理会計を導入して、会社目標→部門目標→個人目標とブレークダウンしていくことにより、個人レベルでも会社目標に直結した適切な目標設定ができ、業績評価も公正になります。この公正な業績評価にリンクした成果分配システムを導入することにより、モチベーションも向上し、全員参加型の経営に近づきます。
2. ITプロジェクトにおける管理会計
ここでは、ITプロジェクトにおける管理会計の役割を解説します。
管理会計は、企業の経営管理、意思決定をするために導入しますが、ITプロジェクトに適用される管理会計すなわちプロジェクト会計は、プロジェクト単位もしくはプロジェクトのポートフォリオ単位で意思決定するためのものです。
プロジェクトマネージャーやチームリーダーなどは、プロジェクト会計を理解し、プロジェクトを成功させるために必要な情報を得ながら、迅速で正確な意思決定ができるようになることが求められます。
プロジェクトの大きな特徴として、目的や目標が明確である、予算が決まっている、納期が決まっているなどが挙げられます。プロジェクトの目的は経営戦略を細分化したもので、経営に直結しています。当然ですが、予算はきめ細かく定量的に管理する必要があります。特に、ITプロジェクトでは予算の大半は人件費となりますので、予算で決められた有限なプロジェクトメンバーをきめ細かく定量的に管理する必要があります。
そこで、管理会計が大きな役割を果たすのです。
財務会計数値(例えば営業利益率)を使ってプロジェクトを評価することはできますが、貢献利益率や損益分岐点などの分析が行えず、定量的な評価が行えません。また、財務会計は外部で規定された会計基準、フォーマットで行われるため、経営者やプロジェクトマネージャーが必要なタイミングで意思決定のための情報を得ることができません。
このような課題を解決するのが管理会計です。
ITプロジェクトに管理会計を導入することで以下のメリットを得ることができるでしょう。
- プロジェクト毎の利益率や損益分岐点などの定量的な分析が行える
- 経営者やプロジェクトマネージャー、チームリーダーが必要なタイミングでプロジェクト状況(主にお金面)を得られ、タイムリーに適切な意思決定が行える
- さまざまな切り口、例えばプロジェクト別やプロジェクトマネージャー別といった切り口での業績評価が行える
- プロジェクトのKPIを継続的にモニターできる
- 発生経費等をプロジェクトに紐付けし、プロジェクトの適切な収支管理が行える
- プロジェクト進行中の仕掛原価も含め、きめ細かなコスト管理が行える
- 財務会計の期間を超えた長期プロジェクトの管理が行える
- 複数のプロジェクトを定量的に評価し、プロジェクトポートフォリオ管理が行える
このように、ITプロジェクトに管理会計を導入することで多くのメリットを得ることができます。
ただし、管理会計をITプロジェクトに導入するには、ITプロジェクトの進捗や経費の進捗、工数状況がスピーディに把握かつアウトプットできる状態でなければなりません。この仕組みを支援するツールがプロジェクト管理ツールです。よって、管理会計をITプロジェクトに導入する際は、同時にプロジェクト管理ツールを導入しておくとより効率的に管理会計を行うことができるのです。
3. まとめ
この記事では、ITプロジェクトにおける管理会計の必要性を解説しました。管理会計をITプロジェクトに適用することにより、プロジェクトに関する意思決定がタイムリーかつ適切に行え、様々な切り口から重要なKPIを継続式にモニターすることができます。
ぜひ、ITプロジェクトへの管理会計の導入を検討してみて下さい。