ITプロジェクト管理のための要員管理の考え方

ITシステムの開発現場では、人的資源の配置がプロジェクトの成否を左右します。プロジェクトが進行する中で、必要な時期に、プロジェクトに必要となるスキルを持った人材を配置できなければ、開発がままならないからです。

そこで、人材を調達し、プロジェクトに組み入れ、高いパフォーマンスを発揮させるため、要員管理の手法が求められてきました。

本記事では、近年のIT開発現場における要員管理のコツや手法について紹介します。

1. 要員管理とは

まず、要員管理の基本を解説します。

要員管理とは、プロジェクトを遂行する上で、適切な人材配置を行う手法です。人材をプロジェクトに参加させられなければ、納期に遅れる、品質基準が満たせない、コストが超過する、といったQCD(納期・品質・コスト)の問題につながります。プロジェクトの成功に、要員管理は欠かせません。

1-1. 要員全体のスキルの見える化

要員管理を行うには、まず、要員全体の状況を把握する必要があります。ITプロジェクトの生産活動に従事するのは、個人ごとに保有するスキルが異なる人員であり、そのスキルを客観的に評価するのは簡単ではありません。そのため、誰が何のスキルについて、どの程度の習熟度があるかといった全体像をポートフォリオなどで把握できるようにします。

1-2. 定期的な見直しが大切

要員管理では、休暇や研修で稼働できない時期を考慮する必要があるので、一度計画を立てたら完了というものではなく、定期的に見直すべきものです。必要に応じて、組織をまたがった人員のアサインを行うため、全部門のリソースを一か所で管理しなければ意味がありません。

1-3. リスク低減を考慮したチーム編成

プロジェクトを立ち上げる際には、各メンバーの責任範囲を明確にした上で、チーム編成を行います。特定のスキルを持った個人に依存していると、その部分での遅延が全体の遅延につながる場合もあります。能力不足・工数不足・工数余剰・欠勤といったリスクを事前に検討し、回避策を練るのがプロジェクト管理者の仕事です。余裕を持った補欠の人員を確保する、スキルの不足する新人にメンターをつける、といった対策を講じ、要員に関する問題を回避します。

1-4. 外部からの要員調達

外部から人員を調達する場合もありますが、これまで付き合いの無かった企業と提携する場合は、スキル評価やコミュニケーションの仕方が異なるケースがあるため、要員管理に関わる難易度はさらに上がります。外部の人材をプロジェクトに組み込む場合は、慎重な計画が求められます。

1-5. 労働環境を考慮する

働き方改革が叫ばれる中、企業は労働環境を整備するよう努めています。要員管理も関係が深い領域であり、例えば、残業が常態化しているプロジェクトには、要員に起因する問題が隠れている可能性が高いと言えます。人員が不足している、必要なスキルを持った人員がアサインされていないといった課題を解決し、労働環境の改善につなげましょう。

2. アジャイル時代の開発組織

近年主流となってきているアジャイル組織を解説します。

2-1. マトリックス組織とは

要員を効率的に配置するため、様々な方法論が提案されてきました。例えば、多くの企業で採用されてきた考え方として、マトリックス組織が挙げられます。マトリックス組織では、より長期的な視点で見た人事上の所属部門と、短期的なプロジェクト上の配属から要員を配置します。所属部門ごとにスキルを蓄積させつつ、効率的な要員配置で売り上げにつなげられるのがメリットです。一方で、二つの上長に報告する煩雑さや、コミュニケーションの難しさが欠点とされます。

アジャイル開発の時代

近年は、開発サイクルを細かく区切って反復的なリリースを繰り返すアジャイル開発の手法が普及してきました。アジャイル開発では、開発部門はもちろん、経営企画・営業・マーケティング・人事などがプロジェクトに参加し、開発プロジェクトの早い段階で、顧客や経営陣からのフィードバックを受け、製品の改善につながる取り組みを行います。

従来の開発手法であるウォーターフォール型開発では、企画から要件定義・設計・実装・テストを順に行っていました。そのため、ユーザーに近い部門は上流工程で関わり、実装やテストは開発部門に任せるといったプロジェクト体制になります。アジャイル開発の場合、反復的に製品の完成度を高めていくので、組織横断的な関わりが遥かに多くなるのが特徴です。

音楽配信サービスSpotifyにおけるアジャイル組織は有名であり、以下の通り、視点の異なる4種類のグループから組織を構成していると言われています。

  • Squad(分隊):特定の製品や機能に責任を持つ、プロダクト・マネージャーを中心とした部門横断チーム
  • Tribe(部族):関連する複数のプロダクトSquadを集めたチーム
  • Chapter(部門):同じ専門性を有する人材を集めたチーム(一般的に人事上の所属部門)
  • Guild(ギルド):誰でも参加可能な、同じ関心を持った人が集まったチーム

例えば、Squad(分隊)が音楽再生を担当するものとして、そこにはサーバー開発・フロントエンド開発・品質管理といった各Chapter(部門)から要員が参加します。ここではマトリックス組織と似たコンセプトと言えるでしょう。

Spotifyでは、音楽再生に加え、音楽のデータベースや決済といった複数の機能が含まれるので、それらをまとめてTribe(部族)を構成します。さらに、アクセスが集中した際の挙動といったシステム全体の課題に対し、Squad(分隊)やChapter(部門)に関係なく、有志のメンバーでGuild(ギルド)を結成し、課題の解決にあたるといった組織構成が考えられます。

ビジネス環境の変化が早い今、ITプロジェクトにも高い柔軟性が求められています。縦割りの硬直的な組織では、最適な要員配置が困難になります。プロジェクト間、所属部門間の情報共有を促進し、組織を超えた協業のできる企業が競争力を獲得していくのだと言えます。

3. 要員管理ツールの選定

最後に、要員管理を効率化するツールを紹介します。

3-1. Excelの限界

要員管理には、長らくエクセルが使われてきました。ガントチャートと呼ばれる工程表を作成し、見積もり工数・人数・求められるスキル等を可視化する企業は多いのではないでしょうか。しかし、手作業でエクセルを管理するのは煩雑で、プロジェクトが進行する中で、整合性がとれなくなる場面も多く見られました。

計算式をあらかじめ設定したテンプレートを作成し、部門間で共有する場合もありますが、規模が大きくなると、設定変更が難しい、あるいは、作成者しか編集できないといったケースがよくあります。また、組織をまたがってプロジェクトを管理する場合、どのバージョンが最新か分からなくなるなど、管理上の問題が多く発生してしまいます。

3-2. SaaS型のプロジェクト管理ツールが主流

オンラインで利用できるプロジェクト管理ツールを使えば、情報共有にかかわるエクセルにまつわる多くの問題が回避できるようになります。リアルタイムで情報を共有し、計画変更時の編集も容易です。複数部門にまたがった要員管理にも適用できます。企業の規模や要員管理の成熟度によって、必要な機能が異なってくるため、そのときに必要な要件を満たすツールを選択するようにします。

複数のプロジェクトをまたがった要員管理を行うにはプロジェクト・ポートフォリオ分析が有効です。大企業になれば、複数のプロジェクトを並行して進めていきますが、必要な人員を社内のプロジェクトが取り合ってしまう状況が生まれる可能性もあります。そこで、売り上げへの貢献や戦略上の価値などから、優先順位をつけ、人員に関する制約条件を解いていく取り組みが有効です。中長期的な視点で要員計画を行い、会社全体で最適化を進めていきます。

4. まとめ

この記事では、要員管理の基本や近年のアジャイル組織、要員管理を効率化するプロジェクト管理ツールについて解説してきました。

要員管理は、知的労働で構成されるITプロジェクトにおいて、肝となる管理手法と言えます。特定の個人への業務集中を避けたり、業務量の平準化をしたりできれば、働き方改革を促進し、従業員満足度の向上にもつながります。要員管理は、組織をまたがった全社的なものになるため、エクセルを手作業で運用していくには限界があり、要員管理を助けるツールの利用が必須となったと言えるでしょう。

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