サブスクリプションサービスは、ネットフリックスのような消費者向けだけではなく、企業向けにも広がっています。CRM(顧客関係管理)や人事・労務・会計など、企業の生産性を高めるシステムが、サブスクリプション方式で利用できるようになってきました。しかし、それを導入する際には、消費者向けとは異なり、企業向けサブスクリプション固有で検討するべき事項も存在するものです。
本記事では、B2Bサブスクリプションの事例を紹介した上で、企業でサブスクリプションを導入する際の注意点について解説します。
目次
1. サブスクリプションとは
サブスクリプションとは、一定の料金を支払って、定められた期間、サービスを利用できる方式を指します。顧客とのやり取りが一回ごとに完結する買い切り型の商品とは異なり、顧客との関係性を強め、契約期間全体での顧客満足度向上を目指します。サービス提供者としては、導入障壁を下げ、継続的な売り上げを期待できるのが利点です。
ユーザー側のメリットとしては、「所有から利用」の考えに則り、初期投資を抑えながら、すぐに導入できる点が挙げられます。サーバーやネットワークを購入したり、ITインフラを整備したりする必要がなく、システム管理やアプリケーション開発はサービス提供者へ委託し、ユーザー企業は、自社の業務へ注力できるのがメリットと言えます。また、使い放題の仕組みであれば、使えば使うほど単位あたりのコストが下がり、収益性が向上します。さらに、サービスが不要になれば、いつでも解約可能です。
2. B2Bサブスクリプションの事例
B2B向けサブスクリプションサービスは世界的に普及しているものから、国内で人気を集めているものまで、様々な事例があります。本章では、有名なB2Bサブスクリプションサービスを紹介します。
2-1. セールスフォース
B2B向けサブスクリプションの世界的リーダー的企業で、CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援)を中心としたソリューションを提供してきました。1ユーザー当たり月額3000円のエッセンシャルプランから始まり、機能や企業サイズに合わせてプランを選択可能です。いつでも解約可能なサブスクリプションにおいて、継続して利用されるよう、顧客満足度向上を追求するカスタマーサクセスの部門を設けています。
2-2. スマートHR
人事労務の効率化を支援するサービスとして成長しているスマートHR。人事情報管理、自動書類作成、電子申請、年末調整、マイナンバー管理、給与明細といった機能が利用できます。50名以下のスモールプラン、51名以上のスタンダードプラン、大企業向けのプロフェッショナルプラン等が用意されています。15日間の無料トライアルがあるので、自社の要件に合うかどうか、リスクなしで試用が可能です。
2-3. freee
会計ソフトのfreee(フリー)は、法人向け会計業務に加え、個人向け経理・申告など、使い方に合わせてサブスクリプションサービスが利用できます。帳簿や決算書作成、請求業務を効率化し、リアルタイムに経営状況が把握できるようになります。同社によると、業務時間を半分以下に削減したり、売り上げが前年比3割増加したりといった効果が報告されています。
3. B2Bサブスクリプションを利用するときの注意点
普及が進む企業向けサブスクリプションですが、契約する前に十分に吟味するべき点も多く存在します。
3-1. 利用数
B2Bサブスクリプションサービスの中には、最低利用人数を縛っているサービスが多く見られます。例えば、1人600円と記載してあっても、最低利用人数が50人であれば、50人以下の企業でも、最低3万円(600円×50人)の支払いが必要です。また、ユーザーの利用状況に応じて、請求額が変わる可能性があります。月に1回でもログインしたら請求されるパターンや、一定数を固定で申し込むケース(例:6-10人であれば、6人でも7人でも同じ)などが知られています。
3-2. プランとオプション
Webサイトの料金表を見て、利用料が安くなると思っていても、自社の要件に合わせるには、複数のプランの中から高額なものを選択しなければならない場合があります。また、選択するプランに加え、必要な機能はオプションとして追加の支払いが求められるケースがあります。
3-3. 不要な機能
複数の機能がまとめて、一つのサブスクリプションサービスとなっているので、自社にとっては不要な機能が含まれている場合があります。不要な機能にも料金を支払わなければならないため、結果として料金が割高になってしまいます。また、サービスを実際には使っていない時期でも、継続して料金が発生するのは無駄なコストとなります。
3-4. ロックイン効果
あるベンダーの商品を採用した後、別のベンダーの商品に切り替えたい場合に、多大な労力が発生してしまい、事実上、切り替えができなくなる状況をロックインと呼びます。企業のデータをサブスクリプションサービスで管理しているため、データを抽出し、他のサービスへ移管するのは困難になることから、サブスクリプションはユーザー企業にとってロックインが発生しやすいビジネスモデルです。また、ロックインされている状況では、サービスが値上げされた場合でも、受け入れざるを得ません。
3-5. トータルコスト
導入費用はかかりませんが、長期間にわたってサブスクリプションを継続利用する場合は、総額が大きくなってしまう可能性があります。柔軟性や利便性を享受するには仕方ない部分ではありますが、利用するサービスを定期的に見直して、無駄な支払いを避けるようにする必要があります。
3-6. 支払い
12か月契約を選択した場合、一括払い、かつ前払いを要求されるケースが多く見られます。支払い方法は、請求書・引き落とし・クレジットカードなど、複数手段が用意されていますが、クレジットカードや引き落としの場合、使わなくなったサービスにも支払いを続けてしまうリスクがあるので、解約忘れに注意が必要です。
3-7. 契約期間と割引き
サブスクリプションサービスのWebサイトには月額料金が記載されていても、一か月間の契約は認められず、長期契約しか選択できない場合があります。一方で、1か月契約に比べ、12か月契約の場合、割引きが適用されるサービスも多く見られます。まずは、1か月契約で始めた上で、継続利用の方針を固めてから、長期契約にすると良いでしょう。
4. B2Bサブスクリプションの始め方
企業向けサブスクリプションにおける、契約までのコツを記載します。
4-1. 無料トライアルを利用しよう
B2B向けサブスクリプションサービスでは、2週間~1か月程度の無料トライアルが用意されているものが多く見られます。場合によっては、限定された機能は無料のまま利用し続けられる「フリーミアム」モデルを採用しているケースもあります。B2Bサブスクリプションを使う際には、まず、使ってみて、自社の要件に合致しているかどうかを確認するべきです。
4-2. デモを活用しよう
企業向けサブスクリプションでは、営業担当者からの「デモ」を見て確認することが推奨されます。デモを通して、サービスを早く理解できるようになり、また、自分で見つけられない優れた機能を発見するのに有効です。最近では、オンライン・デモが主流になってきているため、30分程度の商談で手軽に理解が深まります。
4-3. 申し込み前の最終確認をお忘れなく
正式にサービスを申し込む前には、もう一度、請求の条件を確認するようにしましょう。従量課金で、毎月利用しただけ請求されるのが良い仕組みに見えますが、一方で、急に使い過ぎてしまい、請求がかさむケースも考えられます。Webサイトを読み込んだり、営業担当者に確認したりしてから申し込みを行う手順が推奨されます。
5. まとめ
企業向けサブスクリプションサービスには、最低利用人数・請求利用数・プラン・オプション・契約期間・支払いなど、様々な考慮点が存在することを紹介しました。営業や人事・労務・会計を始め、企業にはサブスクリプションサービスによって生産性を高める機会が広がっています。無料トライアルやオンラインデモを提供しているサービスが多いので、細かい仕様や条件が手軽に確認できるようになりました。企業の規模や業務、それに合わせた要件を考慮し、最適な契約を選択するようにしましょう。