政府の働き方改革や、2019年に発生した新型コロナウイルス(COVID−19)の感染拡大防止の流れを受け、日本におけるテレワークの取り組みが広がりを見せています。時間的・空間的制約の少ない勤務を可能とするテレワークですが、「同一空間・同一時間帯に勤務する」という従来の働き方における常識のまま実践すると、大きな失敗につながる危険性があります。
この記事では、テレワークを失敗せず有効に運用するため、導入時に見られる失敗例と回避策を紹介します。
1. テレワークとは
テレワークとは、IT技術やツールを用い、オフィスに出社せず業務を行う働き方を指します。
時間的・空間的制約を受けることなく働くことができるため、新たな働き方として注目を集めています。テレワークの概要や導入については別記事でも詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。
■ 働き方改革のカギ!テレワークとは何か
https://www.crowdlog.jp/blog/2019/07/23/115277/
■ テレワークの環境・制度を整備し、トライアルから始めてみよう
https://www.crowdlog.jp/blog/telework/
2. なぜテレワークに失敗するのか
テレワークを導入した結果、従来に比べ生産性が下がったというケースが散見されます。このような結果に陥る要因としては、空間的制約と時間的制約が挙げられます。
空間的・時間的に自由な勤務こそがテレワーク最大のメリットですが、同時にテレワークの導入において考慮すべきポイントでもあるのです。ここでは、この二つの要因に関して具体的に説明します。
2-1. 空間的制約
チームメンバーがテレワークを利用し別々の場所で勤務するということは、同じ空間を共有していないということでもあります。オフィス内であれば数秒で済むコミュニケーションが、場合によっては1日以上かかることすらあるのです。
また、オフィスは業務を行うために最適化された空間ですが、テレワークでの勤務環境もそうであるとは限りません。自宅や飲食店など、設備が十分でない環境で働くこともあります。
その結果、オフィスにあった備品が自宅では使えないなどといった不便さも生じます。
2-2. 時間的制約
テレワークにおいては、場所だけでなく勤務時間についても自由度が高く設定されています。
自宅での勤務の場合、家族や同居人の生活リズムも考慮して勤務する必要があるメンバーもいるでしょう。
そのため、メンバーによって稼働時間が異なるという状況が生じます。例えば、情報共有や確認のメールを送っても、相手がそのメールを確認するのは翌日、というケースも想定されます。
3. テレワーク環境でのよくある失敗事例
ここでは、テレワークの具体的な失敗例とその回避策を紹介します。テレワーク の導入を失敗しないように、テレワークで陥りがちな失敗を知り、事前に回避策を講じておくと良いでしょう。
3-1. 契約書の捺印が進まない
従来の契約書は、紙に出力し、必ず社印や担当社印を捺印するものとされていました。
そのスタイルを踏襲したままテレワークを導入した場合、書類の作成はテレワークで行うことができますが、捺印のためには結局出社しなければいけないという問題が生じます。中には捺印のため出社したにも関わらず、担当者不在のため社印を保管する金庫が開錠できず、日を改める必要があった、というケースすらあります。
捺印のために出社が必要となる場合は、日時を設定してまとめて持参するなど、ルール作りが大切です。
また、電子契約・電子サインサービスを導入も大変有効です。電子サインを施された電子契約書には、紙の契約書と同等の法的効力があります。印刷・製本の手間が省ける上、捺印や印紙の貼付も不要であるため、人的・経済的コストの削減につながります。
3-2. 印刷環境が整っていない
テレワークへの移行後、印刷環境がなく業務に支障が出るという声も聞かれます。
そのような際には、コンビニの複合機などを利用すると良いでしょう。あるいは前述した電子サインの導入、タブレット端末での営業資料の提示など、ペーパーレス化を進めることも有効です。
3-3. メールやチャットでのディスコミュニケーション
テレワークでのコミュニケーションは、何かしらのツールを用いて行うことになります。対面なら数秒で済むコミュニケーションも、チャットやメールを通すと想定よりも長くかかることもあるでしょう。テレワーク時にはコミュニケーションに必要な工数を多めに見積もり、予めスケジュールに組み込んでおく必要があります。
3-4. チャットでのメッセージが逐次的になってしまう
チャットツールを利用した場合、メールに比べより手軽にメッセージを送ることができます。そのため、思いついたことをその場ですぐに送信し、しばらくしてから別のトピックを思いだして重ねて送信するなど、連絡が複数回に分かれ、煩雑化するリスクがあります。
受け手側はその度に通知を受け、内容を確認するために作業を中断する必要が生じます。
チャットツール利用時でも、内容をしっかりとまとめてから送るという意識づけが求められます。
3-5. メンションを多用してしまう
網羅性を意識しすぎた結果、関係性が薄い人にもメンションを送ってしまうことがあります。送られた側に確認の手間がかかることに加え、必要以上に多くのメンションを受け取ると、本当に必要な連絡を見落とすリスクも高まります。メンションを設定する際には、本当にその相手に送る必要があるのかをしっかりと検討しましょう。
3-6. チャンネルの参加者が整理されていない
チャンネルを作成する際にプロジェクト関係者全員を入れてしまうと、やりとりが複雑化し、チャンネル内が混乱します。参加者側も、関係性が薄いチャンネルが増えてくるとその確認作業自体が負担となりかねません。チャンネルの参加者を選択する際には、情報共有が本当に必要な範囲を検討して設定し、定期的に洗い直しを行うことも大切なポイントのひとつです。
3-7. プロジェクト全体の状況確認が疎かになる
ひとりの空間で働いていると、自分のタスクにだけ集中し、全体を見る視点を失いかねません。他メンバーの担当分の進捗やプロジェクト全体のスケジュールなど、最新の情報を誰もが簡単に参照できる環境を整え、ルーチンでの確認をルール化すると良いでしょう。
3-8. 集中できる環境づくりができていない
テレワークの導入時には、業務に集中できる環境や習慣を整えることも大切です。
例えば、自宅であっても出社時と同じように着替える、通勤を想定して散歩を挟む、仕事以外に使用しないデスクを作るといった取り組みが、集中力の向上に有効です。
4. テレワークの失敗事例-番外編 テレワーク経験者の声-
他にも、実際にテレワークを経験した人材からは次のような失敗談が寄せられています。
ここでは、経験者による実際の声を紹介します。
4-1. 家での業務で肩が凝る
自宅であっても、作業に適したデスクなど環境を整えることが有効です。クッションを置くだけでも快適になりますのでお試しください。
テレビ会議ができるようなおしゃれな部屋がない
カメラを壁に向ける、不要なものを背後に置かないといった工夫で、部屋の様子を映さずに参加することができます。また、Zoom や Microsoft Teams などでは背景を変更することができますので活用しましょう。利用しているWeb会議ツールに背景変更機能が無い場合は、映像をオフにして参加するという方法もあります。
4-2. テレビ会議に子どもの声が入ってしまう
音声をミュートにして参加し、自分が話すタイミングだけ音声をオンにすると良いでしょう。逆に、子供の声が入ることで場が和むケースも多々あります。何事も前向きに捉えましょう。
4-3. メンバーと仕事以外の会話がなく寂しい
スムーズな業務のために、適度なコミュニケーションは不可欠です。対面が難しい状況においては、オンラインランチやオンライン飲み会といった試みも広がりを見せています。
4-4. 余剰時間を有効活用できず、結局睡眠時間になってしまう
睡眠をしっかりとることも時間の有効活用法のひとつです。この機会に体の調子を整えましょう。
4-5. 家族もテレワークをしており、集中できない
稼働時間を分けて設定するなど、家庭内ルールを最初に明確化しておくことで回避可能です。家族で過ごす時間が増えることはテレワークのメリットの一つであり、家族との時間を楽しみましょう。
4-6. 毎日コンビニ弁当で栄養が偏る
通勤などで浮いた時間を利用し、自炊を始めることをお勧めします。SNSなどで公開して反応を楽しむのも良いでしょう。
あるいは、テイクアウトやデリバリーの取り組みも活性化しているため、活用を検討しても良いでしょう。
4-7. お菓子がどんどん減っていく
「作業時にはお菓子を食べない」「休憩は10時と15時」など、独自のルールを設定すると良いでしょう。
4-8. ズボンのボタンがきつくなってきた
気づかないうちに運動不足に陥る人も多いようです。自宅でできる運動や短時間の散歩・体操など、無理のない運動習慣が必要です。
5. まとめ
この記事では、テレワーク の失敗事例とその防ぎ方を紹介しました。昨今、社会全体の流れとして、自分らしく柔軟な働き方を求める声が広がりを見せています。空間的・時間的制約を最小化したテレワークという働き方は、今後更に支持を集めると予想されます。関係者が対面で働くことを前提とした従来の働き方の常識では、この新たなスタイルに対応しきれない場面が生じます。転換期における大きな混乱や失敗を避け、有効なテレワークを実現するためには、過去の失敗例から学び、十分な対策を施して進めていくことが重要といえます。