バーンダウンチャートは、プロジェクトの残りの作業量とその作業を行うための時間の比較を視覚的に表現したグラフです。「プロジェクトの進捗状況」を直感的に把握できるため、必ず時間を守りたい状況で力を発揮します。
さらに、バーンダウンチャートの分析を行うことで、チームがどのように活動しているのか、何をすればさらに改善することができるのか、など複数の指針を明らかにできます。バーンダウンチャートを活用してプロジェクトの進捗を管理する方法について解説します。
バーンダウンチャートとは
バーンダウンチャートとは、「プロジェクトの進捗状況」が直感的に分かるグラフです。縦軸にタスク量、横軸に時間を割り当て、残りのタスク量を線のグラフで示します。
チャート上では、実績線、計画線、理想線が使用されます。グラフを読み取ることで、開始してから完了するまでに必要な時間の割り当て状況を正確かつ視覚的に描き、プロジェクト期間中のリソースの使い方を計画することを目的とします。
一般的に、バーンダウンチャートは短い反復作業を繰り返すアジャイル開発で活用されるケースが多く見られます。アジャイル開発では、スクラムというチームを組んで、スプリントと呼ばれる短い開発サイクルを何度も繰り返し、顧客が要求する仕様に近づけていきます。その際にバーンダウンチャートを使うことで、完了させるべきタスクと予定に対する進捗を直感的に把握することができます。
システムの仕様変更といった状況の変化に迅速に対応していくことが求められるアジャイル開発において、プロジェクトの進捗状況を正確に把握し、適切な対策を立てるためにバーンダウンチャートが欠かせないものになるでしょう。
実績線
実績線は、仕事の実際の進捗具合を現在残っている仕事量で示す線です。すべての仕事量から現在までに終了した仕事量をマイナスすることで導き出されます。現実の進捗具合を残りの仕事が完了するまでの作業時間として表すことが特徴です。
計画線
計画線は、プロジェクトを開始する前に設定したそれぞれのタスクが計画どおりに進んだ場合を表す線です。この線と実績線の乖離の大きさは、計画と進捗のズレを表します。実績線が計画線の右上にいくほど進捗が停滞していることを意味し、2本の線が近づいていればいるほど、プロジェクトは計画どおりに進んでいることを意味しています。
理想線
理想線は、すべての仕事量をプロジェクトに与えられた時間で平均したものです。理想線と計画線を比較することにより、計画の妥当性を確認することが可能です。理想線自体はあくまで進捗具合の平均を示すためのもので、実際の仕事を理想線に合わせて進める必要はありません。
実績線の傾きが鈍い(横向きになる)場合は、プロジェクトが停滞していることを意味します。一方で傾きが鋭い(縦向きになる)場合は、プロジェクトが進行していることを意味します。全体としてどれくらい遅れているかということは、実績線の右上方への膨みぐあいで示されます。
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バーンダウンチャートの読み解き方
バーンダウンチャートは、残された片づけるべき作業の量(縦軸)と時間(横軸)の分析によって、プロジェクトチームがどのように活動しているか明らかになります。そして、何をすればさらに改善することができるのか、複数の指針を決めていきます。
特徴的なグラフのパターンは次の7つです。
ほぼ計画どおりパターン
ほぼ計画に沿う実績線によって特徴づけられます。「メンバーが優秀なためプロジェクトが計画通りに進んでいる」若しくは「計画通りに進めることが目的になり、成果物が仕様通りでなくなっている」のどちらかの可能性があります。
プロジェクトが予想以上に効率的に進んだ場合には、実績線が理想線を下回る軌跡を描くこともあります。
中間から後期学習者のパターン
膨らみがグラフの後ろの方にあることによって特徴づけられます。チームメンバーはあまり成熟しておらず、場合によってはプロジェクトに対して受動的に取り組んでいる可能性があります。
中間学習者のパターン
膨らみが中程にあることによって特徴付けられます。上述「中間から後期学習者」に比べると成熟していることを示します。
早期学習者のパターン
膨らみが早期にあり、その後の緩やかなバーンダウンが特徴です。このチームは早期の発見の重要性を理解しており、チームのゴールを達成するために効果的に動いています。
高原状態のパターン
このチームは最初によい進捗を見せるものの、後半で失速し高原状態となるパターンです。
学習遅延のパターン
これはグラフが終盤に突然上昇し始め、バーンダウンしない失敗パターンです。この遅い変化は最初に起こす必要があり、上述「中間から後期学習者」のパターンの1つです。
スコープの増大のパターン
いきなり作業量が増加することで特徴づけられます。計画段階には存在しなかった新たなタスクが追加された場合には、計画線と実績線の両方に新たなタスクの時間が積み増されます。
グラフでは、計画線と実績線の両方が右肩上がりになる形で反映されます。このパターンは、チームがコミットした作業のスコープを完全に理解していなかったサインと言えます。
このように、バーンダウンチャートから解析できることはたくさんあります。キーとなるのは推移と状態を確認しつつ、改善サイクルを回し続けることです。
バーンダウンチャートを利用するメリット
ここまで、バーンダウンチャートの概要や見方を解説してきました。
ここからは実際に運用することでプロジェクトの進行にどのようなメリットを与えるのか紹介していきます。
プロジェクトの状況を可視化できる
バーンダウンチャート上に記入されている実績線、計画線、理想線から、プロジェクト完了までに必要な作業量とスプリントを完了させるために必要な工数を可視化することができます。
活用していくことでプロジェクトの遅れを早期に検知して、必要な対策を立てることができるメリットがあります。
チームの生産性向上が期待できる
バーンダウンチャートを活用することで、チームの生産性を高める効果が期待できます。
毎日の作業実績と予定しているタスク量が可視化されるため、メンバーが目的意識をもってタスクに取り組めるようになります。
また、進捗に遅れが見られる場合にも、チーム全体が共通認識をもって問題点の解決に向けた検討を進めることができるでしょう。
バーンダウンチャートの作り方
バーンダウンチャートの作成においては、仕事の細分化を行い、それぞれの仕事量や所要時間を推定する必要があります。実際に作成する際の手順について紹介していきます。
工数を見積る
バーンダウンチャートを作成するためにまず、作業完了までの工数を見積もる必要があります。
工数の見積もりはバーンダウンチャートの骨格となる指標です。作業の難易度、メンバーのスキルといった点も考慮して実態と乖離しないように慎重に実施しましょう。
例えば100時間の作業を1日20時間で5日間行う場合、各日の工数は以下のように見積もることができます。
- 1日目 80時間
- 2日目 60時間
- 3日目 40時間
- 4日目 20時間
- 5日目 0時間
日々の進捗を追跡する
見積もった工数に基づいてプロジェクトが始まると、日々の作業実績を追跡し、進捗状況を記録します。
具体的には、各タスク完了までに想定される時間と実際の進み具合を追跡することがおすすめです。Excelを利用することやクラウドログ等のツールを導入することで日々の進捗状況を記録を行いましょう。
しかし、プロジェクトが多忙を極めると、各メンバーによる作業実績の記入が疎かになってしまうケースがあります。そのため作業実績の記入が円滑なプロジェクト運営に必須であることをチームメンバーに理解してもらうとともに、最小限の負担で実績の記録ができるように配慮することが重要です。
実際の工数を計算する
計画工数の算出が完了したら、各タスクに必要な実績値の計算に移りましょう。
各チームメンバーが記録した作業実績の確認やヒアリングを通して集めた情報を参考にして、実態に即した工数を把握することが重要です。実際のプロジェクト現場では、仕様変更や顧客の要望といった不測の事態により、実績工数が当初の計画通りに収まらないケースが多々あります。
プロジェクトは必ずしも計画通りに進むものではありません。計画と実績に差異が発生した場合は、早期に原因を特定し、人員を追加する、顧客と作業範囲の交渉を行うなど、必要な対策を取ることが必要です。
最終的なデータを集計する
実績工数を算出した後は、バーンダウンチャートの作成に必要なデータを集計します。
集計した結果はクラウド上の共有ファイルとして配置するなど、各メンバーが確認しやすい形で保管することが重要です。
作業実績の集計結果はプロジェクトの途中経過を示す重要な情報のため、プロジェクトマネージャーのみならず、チームメンバーにも広く周知する必要があります。
バーンダウンチャートに書き込む
ここまでに集計したデータをバーンダウンチャートに書き込みます。先述の通り、プロジェクトでは何らかの事情で計画と実績に乖離が多くのケースで生じます。
例えば想定した工数を実績が超過した場合、バーンダウンチャート上の実績線が計画線の右上にずれることで、理想線との乖離が生じます。計画との乖離が生じたことを悲観するのではなく、プロジェクト完了までに必要な課題を早期に把握できたとポジティブに捉え、前向きな検討材料として活用しましょう。
バーンダウンチャートを扱う際の注意点
「プロジェクトの進捗状況」を直感的に把握できるバーンダウンチャートですが、使い方を誤ると進捗管理が失敗する可能性もあります。注意すべきポイントは以下の通りです。
バーンダウンチャートだけを見て進捗状況を判断しない
工数管理、ガントチャートなど、様々な情報を統合してプロジェクトの状態を判断しましょう。バーンダウンチャートを使うことが目的にならないことが重要です。
タスクの見積もりを一人で実施しない
プロジェクトマネージャーのみならず、チームメンバーが計画段階から参加することで見積もりがより正確になります。
また見積もりを複数人で行っていれば、計画段階では詳細化されていなかったタスクの早期詳細化や、問題の早期発見に繋がることにもなります。
バーンダウンチャートを完了させることに拘らない
バーンダウンチャートはプロジェクトの進捗管理の目安に過ぎません。プロジェクトが抱えている本質的な問題の発見を図らなければ、かえって効率が落ちてしまいます。
人事評価の指標としない
人事評価の指標とすると、作業量を過大に見積もったり、完了にこだわったり、などデメリットが多々発生する可能性があります。
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まとめ
バーンダウンチャートは、進捗管理に加えて、プロジェクト計画にも役立つツールです。
一方、あくまで「ツール」を使うことや、計画線に沿わせることが目的にならないよう注意が必要です。プロジェクトの期限を守るためにバーンダウンチャートを作成し、他のツールや指標も取り入れながら活用していきましょう。