企業活動をする上で必ず発生するのがコストであり、コスト削減は売上の拡大と同等に、企業の利益確保のための重要な取り組みとなります。一方で、コスト削減の取り組みは反動も生じるため、うかつにコスト削減の取り組みを実施すると悪影響が効果を上回るような結果にもなってしまう恐れがあります。
効果的にコスト削減に取り組むためには、企業で発生するコストの種類と、その種類ごとの削減方法について理解することが大切です。この記事では、コスト削減の助けになるように、コスト削減において知っておくべき点について解説します。
目次
コスト削減の意義とは
コストとは
そもそもコストとは何なのでしょうか。企業活動を行い、価値を生み出していくためには、商品の仕入れ費用や製造費用、オフィス賃料や光熱費、人件費などの費用が必要となります。企業活動におけるコストとは、これらの全般の費用のことを指します。
コストには、一度だけ発生するイニシャルコストや、定常的に発生するランニングコストなどの種類が存在します。コストの種類を正しく認識し、種類ごとのアプローチを行うことがコスト削減のポイントとなります。
コスト削減を行う効果
企業の目的である収益の確保のためには、「売上を上げる」か「費用を下げる」という2つの方法が存在しますが、コスト削減はそのうち後者の取り組みです。
一般的に売上を拡大することは容易ではありません。商品やサービスを販売するためには、需要に基づき適切な数量の商品・サービスを販売する必要がありますし、同業他社のシェアを奪うためには、他社と比べて優れた商品・サービスの開発が必要となります。
一方で、コストの削減の取り組みの多くは自社内で完結するものであり、このような取り組みは比較的実行しやすいといえるでしょう。かつ、例えば100万円のコスト削減は100万円の売上の上昇と同等の効果があるため、積極的に取り組むべき施策といえます。
コスト削減の4つのポイント
以下では、コスト削減を行う上で注意すべきポイントについて解説します。
効果の大きいものから取り組む
コスト削減の取り組みには、印刷の節約や電気のこまめな消灯といった小さな取り組みから、製造ラインの見直しや新技術の導入といった大規模な取り組みまで様々なものが存在します。しかしながら、その効果はコスト削減に掛かる工数に必ずしも比例するものではありません。いかに時間をかけて新しい技術を導入したとしても、そのコスト削減効果が優れているとは限りません。
このように、コスト削減に掛かる工数とその成果は無関係であるため、コスト削減に取り組む際には取り組みの大小を問わず、予想される効果が大きいものから取り組むべきといえるでしょう。特に、定常的に発生するランニングコストについては、削減効果が高く、取り組む価値があるといえます。
取り組みやすいものから取り組む
コスト削減の取り組みには様々な可能性がある一方、取り組みが難しいものも多いといえます。上述した効果の大きさと合わせて、取り組みやすさも対象を検討する際のポイントとすべきでしょう。
例えば、自社内や自組織内で完結する取り組みは、比較的実施しやすい取り組みです。一方で、調達コストの削減のように関係先との調整が必要である者については、難しい取り組みとなりがちです。
PDCAを意識する
一時的にコストを削減したとしても、時間の経過とともに再びコストが増加してしまうケースは多いといえるでしょう。特に、光熱費や印刷費などの削減に代表されるように、従業員の取り組みが必要な施策であればその傾向は高まります。
そこで、PDCAサイクルを意識して、コスト削減の施策実行後もその効果をチェックし、改善の余地がある場合は継続的に取り組みを行っていくことが大切となります。一度実施した施策は月次や年次などで効果の達成状況を確認し、目標としていた効果を得られていなければ取り組みの見直しを行うルールを設けるなど、仕組みとしてPDCAサイクルを導入するとよいでしょう。
コスト削減にはデメリットがあることを意識する
全てのコストというのは、基本的には必要だから発生しているものといえます。そのため、コストを削減すると多くの場合でその反動があることに留意すべきです。
例えば、広告宣伝費の削減は商品やブランドの認知低下につながります。安易に広告宣伝費を削減すると、長期的に見た時に売上の減少につながり、結果としてマイナスの効果を生み出すこともあります。
また、通信費や光熱費の削減といった比較的取り組みやすいものであっても、従業員の満足度低下などにつながる可能性もあります。過剰な取り組みはかえって従業員の士気低下を招いてしまうでしょう。
よって、コスト削減施策を実施する際には、コスト削減の効果がその実施によるデメリットを上回るかどうかチェックすることが必要です。メリットがデメリットを上回ると判断される場合のみ、その施策を実施すべきでしょう。
企業で発生する主なコスト
以下では、企業で発生する主なコストについて解説します。
人件費
企業で発生するコストのうち、主に人に対して発生するのが人件費です。広義の人件費に含まれるコストとしては、人員に対して発生する給与・賞与や福利厚生費、旅費交通費、採用費などが挙げられます。
企業のコストの多くを占めるのが人件費ではありますが、その削減は容易ではありません。安易に人件費を削減した場合、商品やサービスの提供に影響を与えたり、人員のモチベーション低下、人材の採用難が発生したりといった様々なリスクがあります。人件費については、できるだけ手を付けるべきではないコストといえます。
一方で、コスト削減効果が大きいのも人件費です。企業の体力が弱まっており、事業継続が困難である場合など、限定された場面においては有効なコスト削減施策であるといえます。
原価
企業で発生するコストのうち、主に商品やサービスを生み出すために必要なのが原価です。原価に含まれるコストとしては、商品を製造するための材料費や、製造に必要な労務費、商品を仕入れるための仕入費用などが挙げられます。
原価については、人件費と比較すると削減しやすいといえます。材料の調達方法の変更や作業の外注化、システムの導入など、削減できる余地がある種類のコストではありますが、その取り組みは難しくなりがちでもあります。
原価を削減する方法として、大きく「自社の製造効率・サービス提供効率の向上」と「他社からの調達コスト低減」という2つが挙げられます。これらはどちらも難易度が高く、腰を据えて取り組む必要がありますが、一方で成功したときには他社と比較して高い競争力を確保することができます。
経費
企業で発生するコストのうち、主に企業活動を行っていくうえで発生する費用が経費です。経費に含まれるコストとしては、広告宣伝費やオフィス賃料、光熱費、備品などが挙げられます。
経費については自社内の取り組みで削減できる余地が大きいため、比較的コスト削減に取り組みやすい分野といえるでしょう。コスト削減の取り組みの中では、最も先に検討すべき領域といえます。
一方で、人件費や原価の削減と比較すると、どうしても削減効果は低くなりがちでもあります。自社において発生している経費の中で、他社と比較して過剰となっている個所など、できるだけ削減効果が高い項目を対象とした取り組みが有効です。
種類別のコスト削減手法
以下では、コストの種類別に主な削減方法について解説します。
人件費の削減手法
まず、人件費の削減方法について4つのパターンを紹介します。
福利厚生の見直し
比較的影響が低い人件費の削減方法に、福利厚生の見直しが挙げられます。福利厚生は従業員によって利用頻度も異なり、あまり利用されていない制度を見直すことには十分な効果があるといえるでしょう。
研修の削減
また、研修の削減についても比較的影響の少ない人件費の削減方法です。従業員に対する研修内容を見直し、育成にかかっていたコストを削減します。しかしながら、長期的に見た時に従業員のスキルが落ちていくリスクがあることには注意が必要です。
給与水準の引き下げ
給与水準の引き下げはコスト削減効果が大きいですが、一方で従業員からの強い反発が発生します。自社の業績が悪化しており事業継続が困難であるなどの状況下でない限りは実施すべきではないでしょう。
一方で、賞与については比較的柔軟性をもって増減させることができます。自社の業績悪化の際にはまずは賞与の削減から検討を始めるとよいでしょう。
採用の抑制・リストラ
従業員数の削減は最も効果が大きい人件費削減策です。従業員数の削減方法には、採用を抑制して人員の自然減を目指す長期的な方法と、リストラを行うという短期的な方法の2つがあります。できる限り前者を目指すべきですが、事業環境の変化などによりどうしても人員計画に狂いが生じた際はリストラも検討する必要があります。
原価の削減手法
次に、原価の削減方法について3つのパターンを紹介します。
設備・技術導入
原価削減のための王道は、自社の生産効率の向上です。新たに設備や技術を導入することで、製造コストを下げることを狙います。この取り組みは成功すれば効果は大きいですが、設備投資や技術開発による一時的な投資が必要であることに注意が必要です。
調達の見直し
もう一つの原価削減策としては、材料もしくは商品の仕入れ先であるサプライヤーと交渉し、材料の調達コストを下げる、または調達先を見直すことが考えられます。もちろん取引先との交渉次第によるところが大きく、簡単に価格を下げるサプライヤーはいませんので、大量発注など何らかの交渉材料が必要となります。
業務改善
また、業務改善により製品・サービスの提供において必要なコストを削減することも有効です。作業手順の見直しや無駄な業務の削減などによって、作業効率を向上させることで、結果として製造コストの削減につながるでしょう。
経費の削減手法
最後に、経費の削減方法について3つのパターンを紹介します。
賃料・光熱費の削減
最も簡単なコスト削減施策として、電気のこまめな消灯などによる光熱費の削減が挙げられます。近年ではテレワークの推奨などにより、オフィス賃料の削減を行うことも有効です。テレワークには通勤費の削減というメリットもあるため、コスト削減施策としての効果は高いといえるでしょう。
広告宣伝費の削減
広告宣伝費の削減も有効なコスト削減施策の一つです。これまで行っていた広告宣伝を縮小する、もしくは媒体の変更などを行うことを検討します。ただし、広告宣伝費の削減は長期的に見た時に企業やブランドの認知度を低下させるリスクもあるため、安易に削減することは避けるべきでしょう。
システムの刷新
システムの刷新も有効なコスト削減施策です。これまで利用していた高コストのシステムを見直し、クラウドサービスなど安価なものを利用することが有効です。特にオンプレミスでシステムを運用している場合は、ハードウェアの保守切れタイミングでクラウドへの移行を検討するとよいでしょう。
コスト削減の検討プロセス
最後に、コスト改善における検討の流れを紹介します。
現状の把握
コスト削減のためには、まず現状を把握することが大切です。現時点でどのような部分にどのようなコストが発生しているかを整理するとよいでしょう。
特に人件費や原価のうち労務費については、作業ごとの工数の把握も有効です。どのような作業にどの程度の工数が発生しているかを明らかにすることで、業務改善のための検討材料として活用できます。
削減の余地と取り組み内容を整理
次に、現状で発生しているコストのうち、削減の余地がある部分を探します。例えば、あまり利用されていない福利厚生が明らかとなれば、それは削減の余地があるでしょう。
さらに、その余地をどのような取り組みで削減するかを検討します。単純に制度をなくすだけの場合もあれば、光熱費や印刷費の見直しのように従業員の協力が必要なものもあります。
この時、各取り組みによりどの程度のコストが削減できるのかを試算します。
取り組みの優先度付け
さらに、コスト削減余地のうち、コスト削減効果や取り組みやすさなどを考慮して、取り組みに優先度をつけます。当然コスト削減効果が高い取り組みを優先すべきですが、一方でその難易度にも留意する必要があります。コスト削減効果が高く、かつ難易度も低いと思われる取り組みがあれば、真っ先に実行すべきでしょう。
取り組みの実施
優先度をつけたら、優先度が高い取り組みから実際にコスト削減を実施します。コスト削減の取り組みは様々ですが、特に人的な協力が必要な取り組みを行う場合は、関係者への周知徹底が重要となります。
また、テレワークなどのように制度設計やIT基盤などのインフラ整備が必要であるケースであれば、ハード面・ソフト面の両方から検討を行い、一部部署を対象に実験的にテレワークを実施するなど段階的な取り組みを検討するべきでしょう。
結果のチェックと継続的な改善
コスト削減施策を実施したら、必ず継続的に経過を確認します。経過確認として、当初想定したコスト削減余地から、どの程度の削減を実現できたかをチェックします。また、コスト削減の取り組みにおける成果や課題などを分析し、継続的に改善を行っていくことが大切です。
まとめ
この記事では、皆様のコスト削減の助けになるように、コスト削減において知っておくべき点としてコスト削減のポイントや企業で発生するコストの種類と各コストの削減方法、さらにコスト削減の検討プロセスについて解説を行いました。
コスト削減の取り組みには、売上の拡大と同等の効果があります。積極的に取り組むべきといえますが、一方で安易なコスト削減は反動もあることを理解するべきです。慎重な取り組みが必要といえるでしょう。