プロジェクトの成功は準備が8割とも言われることがあり、工程表はその重要な要素です。有効な工程表を作成するにはポイントをおさえ、ひとつひとつ積み上げて作成したうえで運用していくことが重要です。十分に考慮された工程表は生産性の向上に寄与します。ここでは工程表のありかたを見直し、生産性を上げるためにはどのようなポイントをおさえて作成すべきか、また運用のポイントについても解説します。
工程表とは
工程表とはプロジェクト全体のスケジュールや作業の順序、各工程の日程やリソースなどをまとめたものです。工程表の作成はエクセルなどの表計算ソフトの無料テンプレートが多くありますが作成や運用をするには非効率なため、ツールを使うのが一般的になっています。
工程表の重要性
プロジェクトを開始する際、工程表の作成は必須と言えます。ここでは今一度、工程表の重要性を確認し、目的を明確にしておくことで「時間管理戦略」として工程表を作成する意識付けを行います。
重要性1:プロジェクトメンバーの心身の状態を健全に保つ
現実的な工程表による時間管理が行えた場合、優先順位に悩んだり、重要なタスク完了のために急いだり無理をしたりする必要がなく、余計なストレスがない状態で作業を効率的に進めることができるでしょう。プロジェクト中、心身共に健全な状態を保つことは結果的に生産性に結びつきます。
重要性2:ミスの発生を抑える
プロジェクトのタスクが明確で無理のない工程表は、チームメンバーのストレスを軽減します。目の前のタスクに集中できることによりミスの数が減るでしょう。
優れた時間管理は品質に直接影響します。ミスの数が減ると、修正にかかる時間も短縮されるため、全体的なコスト削減にも寄与します。
重要性3:生産性を向上する
工程表によりプロジェクトの全体像がわかることで、チームメンバーは自身のタスクの整理方法を学ぶことができます。タスクと役割が明確になることで、メンバーは仕事のパフォーマンスに責任を持つようになり、無駄な時間や誤った時間の使い方を最小限にするなどで時間管理スキルの向上が期待できます。これらは作業の生産性を最大化することに繋がります。
重要性4:プロジェクトの成功率を上げる
工程表による時間管理は、決められた予算で予定通りプロジェクトを完了させることに寄与します。さらに、タスクとリソース管理を強化することでチームメンバーの作業能力が向上すると、プロジェクト内での工夫や改善にも力を注げるため、プロジェクトの成功率がより向上します。
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生産性を上げる工程表を作るための要件定義と見積の重要性
前項の通り工程表は生産性の向上に影響します。プロジェクトの生産性が高いということは、プロジェクトが成功している可能性が高いと言え、逆に生産性が低いプロジェクトは失敗している可能性が高いと考えられます。
ここでは、生産性を上げる工程表を作るために、まずプロジェクトの失敗要因を確認し、工程表を作成する前工程の「要件定義と見積」に注目します。
プロジェクトの失敗要因とは
日経コンピューターが2018年に実施した「ITプロジェクト実態調査 2018」ではプロジェクトが「計画通りではない」とした理由として、下記のような調査結果が出ています。(※アンケートは複数回答可)
1位.要件定義が不十分(35.2%)
2位.システムの企画が不十分・適切でなかった(31.8%)
3位.テストが不十分だったり、移行作業に問題があったりした(22.7%)
このように、1位、2位ともに上流工程が起因していることが伺えます。
今も昔もプロジェクトの失敗要因に大きな変化はない
前述の日経コンピューターの「ITプロジェクト実態調査」は、2003年、2008年にも実施されています。
調査形式は変更が加えられていますが、どの年代の調査においても失敗の理由に大きな変化はありません。
2018年の調査では、失敗したプロジェクトを「失敗と捉える項目」「それぞれの失敗理由」として下記結果が出ています。
- 失敗と捉える項目:満足を得られなかった
理由の筆頭:要件定義が不十分 - 失敗と捉える項目:コストを順守できなかった
理由の筆頭:追加の開発作業が発生 - 失敗と捉える項目:スケジュールを順守できなかった
理由の筆頭:システムの仕様変更が相次いだ
また、「スケジュールを守れなかったプロジェクトで最も苦労した工程」として要件定義があげられています。
ここから言えることは、プロジェクトを成功に導くには上流工程、特に要件定義が重要であることがわかります。
参考:
プロジェクト失敗の理由、15年前から変わらず
4年前と変わったか?プロジェクト成功率の実態
要件定義と見積の重要性
先の調査結果の通り、プロジェクト失敗の大きな要因は要件定義にあります。現実的な工程表を作成するには、見積が正確でなければ適正なリソース配分やスケジュールを組めないため、要件定義と合わせ見積が重要な要素になります。
見積もる際に参考となるもの
プロジェクトの失敗要因として、テスト工程が3位にきていることから、テスト工程の見積も手を抜けないことがわかります。
IPAの「ソフトウェア開発分析データ集2022」によると、新規開発か追加開発か、開発規模の大小などによってバグの発生率には変動があることがわかっています。
自社のプロジェクトに当てはめ、参考数値として見積もると良いでしょう。
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PMBOK® にみる工程表の作成プロセス
工程表の作り方をプロジェクトマネジメントの知識体系ガイドであるPMBOK® に照らして工程表の作成プロセスを解説します。
明確なプロジェクト計画を作成する
計画は、プロジェクトの範囲や目的、参加者を定義する正式な文書で、プロジェクトがどのように管理され、完了するかを明記します。必ず明確にすべき項目として下記があります。
- 社内の締め切りはいつか
- プロジェクト管理を行うツールは何を使用するのか
- 各タスクと完了の責任者は誰か
良いプロジェクト計画は、日次、週次、月次の目標でプロジェクトの進行を明確にします。これらマイルストンごとの目標は、チームメンバーにスケジュール感と目的意識を与え、時間を建設的に管理し、期限を守るのに役立つでしょう。
WBSの作成
WBS (Work Breakdown Structure) は、プロジェクトの作業を細分化し、タスクとサブタスクを視覚的に整理する手法です。要求をタスクに落とし込む作業によってプロジェクトの要件をより理解でき、また、完了・未完了などの状況を管理しやすくなります。
WBSの作成は下記のステップで行います。
- プロジェクトを完了するために必要なタスクのリストを作成する
- これらのタスクをさらに小さなステップに分割する
依存関係とクリティカルパスを分析する
プロジェクトに必要なタスクを整理できたら、依存関係を調査し、重要度に基づいてタスクを整理します。依存関係を多く持つタスクには、リスクが潜んでいるため、より高い優先度を与える必要があります。
また、クリティカルパスを明らかにすることも重要です。これは、タスクの依存関係がある限りスケジュールを短縮することはできないことを表し、最低限必要な日数を把握することができます。
依存関係とクリティカルパスを作成する手段としては、ネットワーク図があります。ネットワーク図は、各プロジェクトタスクと依存関係を表す矢印を含むボックスで構成し、ガントチャートなどの工程表とWBSを結びつけるものです。
期間とリソースを見積もる
期間とリソースを見積もるには、各プロジェクト タスクに必要なリソース、ツール、ハードウェアなどを把握したうえで、各タスクを完了するのにかかる時間を決定する必要があります。見積もりには、チームメンバーの作業能力を考慮し、タスクを効率的に委任することで、品質管理と作業の生産性が向上します。
この見積もりには、以前のプロジェクトのデータを参考として活用することでより確実性を増すことが期待できます。
スケジュール管理と運用
スケジュール管理では、タスクの進行状況を常に監視し、ステータスを定期的に更新します。また、期待される成果物になっているかも確認することが重要です。
これは、問題を認識して対処するために必要なプロセスで、問題が発生した場合などには必要に応じてスケジュールの改訂を行います。
工程表と時間管理戦略
生産性を上げる工程表づくりとプロジェクトの進行は、時間を管理する「戦略」としてアプローチする必要があります。ここでは、そのためのポイントを解説します。
事前に作業を計画する
指定された期間に達成すべきことを知っていれば、すでに成功への準備が整っていることが調査で明らかになっています。トロント大学のPedro Serrador氏は、論文「The Impact of Planning on Project Success(計画がプロジェクトの成功に与える影響)」では、プロジェクトの成功と計画の相関関係を指摘しており、品質計画がプロジェクトの成功の可能性を高めるだけでなく、費用対効果も高めることを提言しています。
これは、事前の作業計画がそれだけ重要であることを表しています。
Serrador によると、計画は、プロジェクト中にプロジェクトマネージャーによって実行されるすべてのプロセスの最大 48% を占めることがあるとしています。
ルールに則った優先順位を付ける
適切な優先順位はプロジェクトのリスクを下げることになります。重要なタスクと緊急のタスクを決めるには、アイゼンハワーマトリックスを参考にすると良いでしょう。
アイゼンハワーマトリックスは次の 4 つのカテゴリに分類されます。
- 重要かつ緊急: 最初に実行する必要があるタスク
- 重要だが緊急ではない: 後で行うようにスケジュールできるタスク
- 重要ではないが緊急: 委任できるタスク
- 重要でも緊急でもない: スキップできるタスク
シングルタスクで作業する
Entrepreneurに掲載されたマルチタスクの危険性に関する記事「Why Multitasking Is a Myth That’s Breaking Your Brain and Wasting Your Time」によると、一度に複数のタスクを実行することは効果がなく、非効率的であるとしています。
人間の脳は、あるタスクから別のタスクに切り替えるのにスイッチングコストがかかるため、実際に望んでいたほどの生産性が得られないことがわかっています。
一方、一度にひとつのタスクに集中して完了し、その後別のタスクに切り替えるようにすることで、脳や精神的にも負荷が少なく、効率的に作業を進めることができます。
関連記事:マルチタスクとシングルタスクの生産性を考える|研究結果を基に解説
チームを信頼し、委任する
プロジェクトマネージャーは多くのことをひとりで行わず、委任できるタスクを見つけて、より重要で緊急のタスクに集中できるようにします。
仕事を委任することで、チームメンバーの意見を尊重していることを実際に示すことができます。メンバー自身が決定を下せるように権限を与え、監督するだけに留めます。これは、自身の負担が減るだけでなく、チームメンバーの成長も期待できます。
「ノー」と言えるような環境をつくる
チームメンバーは、仕事ができない人、仕事をしない人と思われたくないため、多くのタスクを引き受けてしまうことがあります。
チームメンバーは与えられた時間内に期待される成果物をアウトプットするために、自分の限界を知る必要があります。これは、過度なストレスや、燃え尽き症候群を回避するうえでも有効です。プロジェクトマネージャーやリーダーは威圧的にならず、ノーと言える環境をつくる必要があります。
毎日の進捗を認識する
毎日の進捗を記録し、うまくいったタスク、残っているタスクを明らかにします。これにより気づきを得られたり、翌日以降の計画を立てられたり、状況の見える化にも繋がります。これらの記録には、プロジェクト管理ツールを用い、オープンにしておくと良いでしょう。
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まとめ
ここまで、プロジェクトの工程表の作成や、その運用には「時間管理戦略」としての行動が必要であることを解説してきました。工程表を効率的に作成し、運用していくにはツール選びも重要な要素になります。プロジェクト管理ツールには様々な種類がありますが「クラウドログ」は工程以外に工数も管理でき、生産性改善に役立ちます。無料の試用期間もあるため、自社のプロジェクト管理に沿うかどうか、是非一度お試しください。