急成長を続けてきた電子書籍市場において、株式会社メディアドゥ様は、出版社と電子書店を繋ぐ取次基幹システムを自社開発し、電子書籍流通を下支えしてこられました。顧客のきめ細かな要望に対しても、新たな機能を開発、実装するなど、そのスピード感で業界トップの地位を築いています。
2023年末、新たな工数管理システムとしてクラウドログの導入を決定、技術本部に在籍するエンジニアを中心に約100名の皆様に活用いただいています。
どのような課題を感じ、ご導入に至ったのか、経緯と導入によって得られた成果について、技術本部を管掌する中野様と実務を担当する櫻井様にお話を伺いました。
背景
- ソフトウェアを資産計上するための工数管理の精度が低く、信頼できるデータが得られていないと感じていた
- 予実管理が不十分な結果、計画と実績の乖離が大きく、プロジェクト管理に支障をきたしていた
- 社員に入力を促す運用フロー、さらにデータの集計や分析にも余計な手間がかかっていた
決め手
- 案件や工程ごとに詳細な工数管理が可能で、資産計上に必要な機能がそろっていた
- カレンダー連携のほか、入力のインターフェースが優れておりスムーズに実装できると感じた
- 営業担当者の製品知識の深さにより、具体的な活用方法の提案力が高かった
- APIを通じ将来的に他のシステムと連携する際の拡張性を感じた
効果
- 工数の入力粒度が大幅に向上し、より正確な工数管理が可能になった
- 実工数と経理側の資産計上額がずれる要因が特定でき、適正な資産計上に向けて一歩前進できた
- 工数データの集計時間、レポート作成にかかる工程が大幅に短縮できた
- プロジェクトごとの管理が可能になり、進捗や問題点の早期発見につながった
- エンジニアの働き方・パフォーマンスの可視化が進み、生産性向上や評価の適正化につなげられる手ごたえを感じている
電子書籍の取次会社として、各書店のニーズに応えるシステムを開発
御社の事業内容を教えてください。
中野 要様(以下、敬称略):弊社は、著作物のデジタル流通を促進するため、電子書籍の取次事業を展開しています。出版社と電子書籍ストアを繋ぐ役割を担い、双方の顧客に向けてサービスを提供しています。
電子書籍ならではの施策として、お客様ごとに無料キャンペーン、期間限定の閲覧といったきめ細かなマーケティング面でのニーズがあり、個別かつ迅速な対応が求められます。変化の激しい電子書籍業界で生き残ってこられた理由のひとつに技術力の高さがあげられるかと自負しており、そのためにはまず開発力が必要であるため、エンジニアの育成にも力を入れてきました。
工数管理を行う対象の部署、業務内容も教えていただけますか。
中野:工数管理を行う対象は、私が管轄する技術本部の開発部隊です。弊社の基幹事業である電子書籍流通事業の取次基幹システムの開発全般を担当し、正社員のほか、パートナー企業からの派遣や業務委託を含め、100名近くになります。さらに管掌範囲の拡大にともなって現在は、エンジニア職以外の部下も増えています。
正確な予実管理・資産計上のために高精度な工数管理を実現したい
クラウドログを導入する以前から工数管理に取り組まれていたのでしょうか。
櫻井 理沙様(以下、敬称略):はい。私が入社した5年前の時点では、すでに別のツールが使われていました。ただ、入力方法がマニュアル化されていなかったので、チーム毎に入力ルールにバラつきがありました。一部のチームではスプレッドシートから自動連携をして入力の手間を減らすなど、個々それぞれが工夫して使用している状態でした。
私は技術本部の庶務全般を担当しており、以前はエンジニアの方々が個別に入力した工数データをとりまとめて集計し、経理部門に提出する必要があったのですが、これがとても大変でした。まずデータ量が多く、ダウンロードに時間がかかってしまうのと、経理担当に求められる形式に適合するように加工するので、毎月ほぼ1日がかりの作業になっていました。入力の催促も私が行っていたので、負担に感じていたのは事実です。
中野:もう一つの問題は、入力されたデータの精度です。案件ごとの工数が大まかにしか把握できず、さらに入力前に属人的な判断が加わるため、同じ業務にもかかわらず人によって工数の評価が10倍異なることもあったのです。これではまったくデータとして信用できません。
計画と実績が大幅にずれるという課題もあったのですが、そもそも工数が正確に把握できておらず正しい分析が出来ない状態であると考えていました。また、弊社では業績のKPIの一つとしてEBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization=営業利益に減価償却費を足して計算し、企業の収益性の高さをより正確に示すための指標)を指標にしており、できるだけ正しく提示することが求められます。このEBITDAの精度を高めるにも、工数管理を正確に行いたいと考えるようになりました。
クラウドログを採用した決め手を教えてください。
中野:クラウドログを選んだ決め手は、主に3点ありました。
まず1点目は、案件や工程ごとに詳細な工数管理が可能で、資産計上対象の工程を管理者側で設定できる点です。以前は工数の計上先を現場の判断に委ねる項目が多かったので、「工数データの入力だけ」で計上先を自動判別できる仕組みの構築にこだわりました。
2点目は、そのための使いやすさです。カレンダー連携など、ユーザーフレンドリーな入力インターフェースが用意されていました。エンジニアの負担を軽減しつつ、正確な入力を促せると判断しました。
そして3点目は、レポーティング機能の充実度です。
営業担当者の製品知識の深さにも感心しました。初期設定をすべて私が行ったのですが、たとえばレポーティングで「こんな集計の出し方はできませんか」「プロジェクトごとに予算管理をしたいのですが」と質問すると、その場で解決方法を提案してくれました。クラウドログは、機能が豊富なだけに営業の方の製品知識のレベルも高くないと大変だと思いますが、こちらの「やりたいこと」をすばやく捉えてくださるので、オンボーディングまで最短距離で進めたと思います。
高精度な工数の可視化が実現し、社内の意識にも変化
クラウドログ導入後の実務についてはいかがでしょうか。
櫻井:まず実務面での負担は大幅に軽減されました。
具体的には、工数データの集計作業が格段に楽になりました。柔軟なレポート作成が可能で、データのエクスポート機能も充実しているので、経理部門への報告や分析にかかる時間が劇的に短縮されました。
入力の精度も向上したと感じます。カレンダー連携機能で、エンジニアが日々の作業をスムーズに記録できるようになりました。さらに、チームリーダーによる承認フローを導入したことで、入力漏れや間違いのチェックも効率化されました。
正確な工数の把握という点でのご評価もお聞かせください。
中野:クラウドログ導入後は、データの精度が十分なレベルまで改善できたと考えています。エンジニアの日々の作業時間も、以前は大まかな分類で10項目程度だったものが、現在は100項目以上の細かい粒度で工数を管理できています。各プロジェクトや業務にどれだけの時間が費やされているかを正確に把握できるようになりました。
櫻井:パートナー企業や業務委託のエンジニアも含めて一元的に管理できるようになったことも大きな進歩ですね。また、さらに精度を高めるための工夫も続けています。
どのような工夫でしょうか。
中野:毎月、現場の声を吸い上げて改善を行っています。たとえば、適切な入力項目がない場合に項目を新設するなどです。当初はエンジニアのみの入力を想定していましたが、対象の職種が広がるにつれて「顧客との打ち合わせ時間」「顧客からの機能改善要望への対応」など、直接的な開発業務にはなかった項目が出てきました。
できるだけ「その他」に割り振られる工数の割合を減らすことが、精度向上につながりました。
ほかにもクラウドログ導入による成果・変化を感じている点はありますか。
中野:プロジェクト管理の面で進展があったと思います。これまでと異なり、各案件の進捗状況をマネージャークラスがリアルタイムで把握できるようになったため、課題の早期発見、そして迅速な対応が可能になりました。
精度の粗い管理が許されるのは業績が急成長しているときだけです。どんな成長性の高い事業にも曲がり角や踊り場はあるものです。その中で、よい意味での危機感、予算進捗に対する感度が高くなったことは副次効果としてプラスに捉えています。
工数管理データを会計・人事などへ応用する拡張性の期待
次は正確な工数データを経理データと紐づけて、資産計上に活かすステップですね。
中野:その通りです。クラウドログで集計したデータの信頼性が上がった結果、経理部門が行う実際の資産計上額との間にもまだまだ乖離があるとわかりました。このギャップの解決が、次なる課題だと言えます。
経理部門との連携がしやすくなったことが工数管理システムによる大きな進歩なので、今後も継続して協議を重ねながら資産計上の計算ルールを確立していこうと考えています。
より正確な財務報告と、効果的な経営判断につなげていくことが目標ですが、ようやく一歩近づけたのかなと感じています。
勤怠、人事システムなどとの連携についてはどのようにお考えですか。
中野:勤怠管理、実稼働時間の記録については現在人事が改善中であり、いずれクラウドログとの連携も視野に入れなくてはなりません。こうした今後の拡張性をどう実現するかも重要な課題であり、API連携の容易さもクラウドログに期待しているところです。
また、ただちに人事評価に用いるわけではない、と断ったうえでお話をすると、同じタスクに対して誰がより効率的に取り組んでいるか、あるいは特定の業務に誰が多くの時間を費やしているかが明確になったのは事実です。ここから個別の開発能力を定量的に判断できるようになったと言えるでしょう。
これまで上司の主観で語られることが多かったため、より適正な評価に活かせる可能性はあります。もちろん仕事の創造性や問題解決能力といった時間だけで図れない側面も重要だというのは大前提です。
さらに開発管理ツールとの組み合わせ、これらのデータをBIツールで統合し、将来的には多角的な分析を行うことも視野に入れています。
最後に、工数管理システムの導入を検討している企業に向けてメッセージがあればお願いいたします。
中野:工数管理ツールの選定にあたっては「プロジェクトの採算性向上」や「資産計上の精度の追及」など、抱えている課題解決が出来るかどうかが重要だと思います。弊社もまだ試行錯誤の過程だと思っていますが、情報の精度が高まったことで組織全体の理解と協力を得られるようになりました。単なる工数管理ツールとして利用するのではなく、経営の可視化と意思決定支援のためのツールとして活用したい企業には、必要不可欠なツールであると考えています。
株式会社メディアドゥ
1999年4月
事業内容:電子書籍の取次業務、取次基幹システムの開発・提供など
社員数:316名(2024年2月末現在)
資本金:59億59百万円(2024年2月末現在)